roudoujoukenmeiji-rule 【2026年版】今さら聞けない「労働条件明示ルール」の落とし穴。経営者が再点検すべき実務対応ガイド
【2026年版】今さら聞けない「労働条件明示ルール」の落とし穴。
経営者が再点検すべき実務対応ガイド

最終更新日:2026.02.19(公開日:2026.2.19)
監修者:営業責任者 渥美 瞬
監修協力:社会保険労務士 河守 勝彦

労働条件明示ルール」の落とし穴

本記事のポイント

  • (1)2024年4月施行の労働条件明示ルール改正で、就業場所・業務内容の「変更範囲」明示が義務化
  • (2)有期契約労働者には「更新上限」「無期転換申込機会」「無期転換後の労働条件」明示が新たに必須
  • (3)不明示は労働基準法第120条の罰則(30万円以下の罰金)対象。雇用契約書・労働条件通知書の早急な見直しが必要

「労働条件明示ルールの改正って結局なにを直せばいいの?」
「雇用契約書のテンプレートをそのまま使っていて大丈夫?」
――2024年4月から労働条件明示義務が強化され、経営者・人事担当者の実務負担は確実に増えました。

特に、就業場所・業務内容の“変更範囲”の明示は、採用時の説明不足や配置転換トラブルを防ぐ一方で、書き方を誤ると企業側の裁量を狭める可能性もあります。

本記事では、労働条件明示ルール改正の内容を整理し、雇用契約書見直しの実務対応を、OK例・NG例を交えて解説します。

労働条件明示ルール改正とは?【背景と法的根拠】

労働条件明示は、労働基準法第15条および労働基準法施行規則第5条に基づき、事業主が労働者に対して賃金、労働時間、就業場所等の重要事項を明示する義務です。さらに求人段階では、職業安定法の枠組み(施行規則等)により、募集情報の明確化も求められます。

近年はリモートワーク、勤務地限定正社員、職務限定契約など働き方が多様化し、「採用時に聞いていた話と違う」というミスマッチが増えました。たとえば「転勤なしと思っていたが、全国転勤を命じられた」「事務職で採用されたのに営業に回された」などです。

こうしたトラブルを減らすため、採用時点で“将来どこまで変わり得るのか”を見える化するのが、今回の改正の狙いです。

【2024年4月施行】労働条件明示ルール改正で何が変わったのか

改正の柱は次の2つです。

  • (1)すべての労働者に追加:就業場所・業務内容の「変更範囲」明示
  • (2)有期契約労働者に追加:更新上限/無期転換申込機会/無期転換後の労働条件の明示

重要なのは適用タイミングです。原則として、2024年4月1日以降に「新たに締結」または「更新」する労働契約が対象です。
既存契約を直ちに全員分作り直す必要はありませんが、契約更新が多い企業(契約社員・パートが多い職場など)は、更新のたびに新ルール対応が必須になります。

就業場所・業務内容の「変更範囲」明示の実務ポイント

ここが最も質問の多いポイントです。ポイントは「雇入れ直後」と「変更の範囲」を区別して書くことです。

【就業場所:記載例】

  • ・雇入れ直後:東京本社(東京都千代田区〇〇)
  • ・変更の範囲:関東圏内の当社事業所(今後新設される拠点を含む)

【業務内容:記載例】

  • ・雇入れ直後:営業部における新規顧客開拓業務
  • ・変更の範囲:営業部門内のすべての業務(既存顧客管理、営業企画、営業事務等)

OK例(具体性があり実態に合う)

「関西エリアの店舗(大阪・兵庫・京都)」「経理業務(仕訳、支払、月次締め)」など、範囲が読める書き方。

NG例(曖昧/実態と乖離)

「全国の事業所」「会社が定める一切の業務」と広く書きつつ、実際は転勤させる予定がないケース。
→採用時に敬遠されやすく、ミスマッチも増えます。

よくある落とし穴:狭く書きすぎる

たとえば「就業場所:本社のみ(変更なし)」と明示したのに、後で支店への異動を命じると、労働契約違反となるおそれがあります。
異動を想定するなら、最初からその範囲を明示する必要があります。

※正社員でも適用されます

「うちは正社員ばかりだから関係ない」は誤解です。中途採用の職種限定や、配置転換・職務変更を伴う採用では特に注意しましょう。

有期契約労働者に追加された明示事項【更新上限・無期転換】

有期契約労働者(契約社員、パート、アルバイトなど)には、以下の3点が追加で求められます。

(1)更新上限の有無と内容の明示

【例】

  • ・更新上限:通算契約期間5年まで
  • ・更新上限:更新回数3回まで
  • ・更新上限:なし(※上限を設けない場合も明示)

【実務例】定年後再雇用

「1年更新で65歳まで」と運用しているなら、「更新上限:65歳に達する日まで」など、運用が読める記載にします。

なお、すでに雇用している有期契約労働者に対して、新たに更新上限を設定・短縮する場合は、理由を説明する努力義務があります。
現場では「次で終了」とだけ伝えて炎上しがちなので、説明資料や面談記録も整えておきましょう。

(2)無期転換申込機会の明示

通算5年を超える有期契約(反復更新)では、一定の更新時に無期転換申込権が発生します。
申込権が発生する更新時には、申込ができること、申込先、期限を明示します。

【明示例(文案)】

あなたは本契約期間中に無期労働契約への転換を申し込むことができます。
申込先:人事総務部(内線〇〇)/申込期限:本契約期間満了日まで

(3)無期転換後の労働条件の明示

無期転換後の賃金、労働時間、就業場所、業務内容などを、具体的に明示します。
「会社が別途定める」「協議して決める」といった曖昧な記載だけでは、明示義務を果たしたことになりません。

【例】

  • ・賃金:無期転換後も現行と同一
  • ・就業場所:雇入れ直後と同一/変更範囲は〇〇
  • ・業務内容:雇入れ直後と同一/変更範囲は〇〇

雇用契約書・労働条件通知書の見直し実務【チェックリスト】

まずはテンプレートの棚卸しから始めましょう。紙でも電子でも、要件を満たせばよいですが、実務では「雇用契約書+労働条件通知書」を一本化している企業も多いはずです。
いずれにしても、次のチェック項目を埋められる様式に改訂します。

【改訂チェックリスト】

  • 就業場所:雇入れ直後/変更範囲の欄がある
  • 業務内容:雇入れ直後/変更範囲の欄がある
  • 有期の場合:更新の有無、判断基準、更新上限の有無・内容が書ける
  • 有期の場合:無期転換申込機会(申込先・期限)が書ける
  • 有期の場合:無期転換後の労働条件を具体的に記載できる

【実務のコツ】

  • ・「会社が定める業務」など便利な一文は、採用では不利になることが多いです。
    職種・採用目的に応じて、総合職/地域限定職/専門職などの区分ごとにテンプレートを複数用意すると運用しやすくなります。
  • ・就業規則との整合性も重要です。契約書で狭く書き、就業規則で広く書いても、個別契約が優先される場面があります。

よくある質問【経営者が陥りがちな落とし穴】

  • Q

    変更範囲を広く書いておき、実際は限定運用すれば問題ない?

    A

    一見安全策に見えますが、採用面では逆効果になりやすく、ミスマッチも増えます。加えて、実態と乖離した明示は「説明と違う」と争点化しやすい点に注意しましょう。

  • Q

    パート・アルバイトは「変更範囲なし」と書いてよい?

    A

    実態として変更がないなら「変更なし」「雇入れ直後と同一」と記載できます。ただし、店舗統廃合等で異動の可能性があるなら、その範囲は正直に書くべきです。

  • Q

    無期転換後の労働条件を「別途定める」としてよい?

    A

    原則として具体的な明示が必要です。少なくとも賃金・労働時間・就業場所・業務内容など基本条件は提示できる状態に整えておきましょう。

  • Q

    リモートワークがある場合、就業場所の変更範囲はどう書く?

    A

    例えば「雇入れ直後:自宅および東京本社」「変更の範囲:会社が指定する場所(自宅、サテライトオフィス、関東圏内の事業所等)」のように、在宅・出社・出張の想定を織り込みます。実態として出社頻度が決まっているなら、その運用も別紙(就業規則・在宅勤務規程)と整合させましょう。

  • Q

    面接での説明と契約書の記載がズレたらどうなる?

    A

    争点化しやすくなります。契約書が優先されやすい一方、面接時の説明が“労働条件として合意された”と評価される可能性もあります。採用説明は、求人票・面接メモ・内定通知書・契約書で“同じ内容”に揃えるのが最も安全です。

  • Q

    「変更範囲」を後から変更したくなったら?

    A

    それは労働条件の変更になります。個別同意が必要となる場面もあり得ますので、最初の設計段階で「実際にあり得る範囲」を慎重に決めることが重要です。

まとめ|今すぐ取るべきアクションリスト

労働条件明示ルール改正への対応は、罰則回避だけでなく、採用のミスマッチ防止、定着率向上、労務トラブル予防にも直結します。
最後に、実務アクションを整理します。

【今すぐやること(優先度:高)】

  • 1)雇用契約書/労働条件通知書のテンプレートを点検し、変更範囲・有期追加事項の欄を追加する
  • 2)有期契約の更新スケジュールを洗い出し、更新時に必ず新ルールで交付できる運用を整える
  • 3)職種・雇用形態ごとに「変更範囲」をどこまで設定するか方針を決め、採用説明と一致させる

【専門家に相談を勧めるケース】

  • ・雇用形態が複数混在し、テンプレートが一本化できない
  • ・就業規則と個別契約の整合性に不安がある
  • ・無期転換(通算5年)の対象者管理ができていない
  • ・同一労働同一賃金や処遇設計も含めて一度に整えたい

労働条件明示は「書面を作る」ことがゴールではなく、「説明と運用が一致している状態」を作ることが本質です。
自社の実態に即した雇用契約書の見直しを進め、トラブルのない採用・配置・更新運用につなげていきましょう。

【実務例で理解】変更範囲の書き方(職種別テンプレート例)

変更範囲は「広く書けば安心」でも「狭く書けば安全」でもありません。
採用目的と人事運用(実際にあり得る異動)を一致させるのが基本です。以下は、社内でよく使われる区分別の例です。

(A)総合職(配置転換・転勤があり得る)

  • ・【就業場所】雇入れ直後:本社/変更の範囲:国内の当社事業所
  • ・【業務内容】雇入れ直後:企画部の業務/変更の範囲:会社の定める業務(ただし、適性・能力・業務上の必要性に基づく)

※「会社の定める業務」を使う場合は、採用説明で“実際に想定される範囲”を口頭でも補足し、面接メモに残すと紛争予防になります。

(B)地域限定職(転居を伴う転勤なし)

  • ・【就業場所】雇入れ直後:大阪支店/変更の範囲:大阪府内の当社事業所
  • ・【業務内容】雇入れ直後:営業部門の業務/変更の範囲:営業部門内の業務

※「府内」「市内」「通勤圏」など、地理的範囲は企業の実情に合わせて具体化しましょう。

(C)専門職(職務を限定したい)

  • ・【就業場所】雇入れ直後:本社/変更の範囲:本社(変更なし)
  • ・【業務内容】雇入れ直後:経理(決算・税務補助)/変更の範囲:経理関連業務(会計・支払・月次締め等)

※専門職は「何でも屋」に見える記載を避けるほど採用面で有利になりやすい一方、実態として兼務があるなら、その範囲は明示しておく必要があります。

【NG→OKで整理】書き方の改善例(短文で使える言い換え集)

  • ・NG:「転勤の可能性あり」
  • ・OK:「変更の範囲:国内の当社事業所(転居を伴う異動を含む)」
  • ・NG:「業務は会社の指示による」
  • ・OK:「変更の範囲:所属部門内の業務(例:受発注、在庫管理、顧客対応)」
  • ・NG:「必要に応じて配置転換」
  • ・OK:「変更の範囲:会社の定める業務(配置転換の可能性あり)。ただし、本人の適性・能力・業務上の必要性を踏まえる」

“できるだけ短く書きたい”というニーズは多いのですが、短いほど誤解が生まれやすいのも事実です。
最低限「範囲」「例示」「区分(雇入れ直後/変更)」の3点が揃うと、読み手の理解が一気に進みます。

【有期の実務】更新条項の整え方(更新上限+更新判断基準)

有期契約では、更新上限だけでなく、更新の判断基準(勤務成績、業務量、会社の経営状況等)をあわせて整備しておくと、更新しない(雇止め)局面の説明がしやすくなります。

【更新条項の例】

  • ・契約更新:あり(勤務成績、勤務態度、業務遂行能力、業務量、会社の経営状況等により判断)
  • ・更新上限:通算契約期間5年まで(または更新回数3回まで)

【現場で起きがちなトラブル例】

  • ・口頭では「更新は基本する」と言っていたのに、書面は「更新なし」に近い表現になっている
  • ・更新上限を途中で導入したが、本人へ理由説明・記録が残っていない
  • ・5年超の対象者管理ができておらず、無期転換申込権の明示が漏れる

→このあたりは、労務トラブルの火種になりやすいので、台帳管理(通算契約期間・更新回数・申込権発生日)を作り、更新前に必ずチェックする運用が効果的です。

【手順で迷わない】社内運用の作り方(最小ステップ)

最後に、「結局社内でどう回せばいい?」という方向けに、最小ステップを提示します。

Step1:

現行の雇用契約書・労働条件通知書を棚卸し(雇用形態別に分類)

Step2:

改正項目(変更範囲/有期追加事項)の入力欄を追加

Step3:

職種別に“変更範囲”の標準文言を決める(総合職/地域限定/専門職など)

Step4:

採用時の説明資料(求人票・面接メモ・内定通知)と文言の整合をとる

Step5:

契約更新の前にチェックする仕組みを作る(更新予定者リスト+台帳)

紙で交付する場合も、電子で交付する場合も、重要なのは「本人が内容を確認できる状態」で明示がされていることです。
運用が忙しい企業ほど、テンプレートの標準化とチェックの自動化(チェックリスト化)が効いてきます。

【罰則だけではない】未対応が招く“採用・定着”リスク

労働条件の不明示は、罰則(30万円以下の罰金)だけがリスクではありません。
実務では、①入社後すぐの離職、②SNS等での評判低下、③労働局相談・あっせん等の紛争化、④配置転換命令の有効性争い、という形でコストが膨らみます。

特に中途採用では「話が違う」と感じると退職代行に直行するケースもあり、採用コストの回収ができなくなります。

ワンポイント:社労士監修でよく行う“最終チェック”

最後に、条文や様式を整えても、運用がズレると意味がありません。
交付前に「実態(異動の可能性)」「求人票の記載」「就業規則の規定」「社内の説明フロー」が一致しているか、必ず横串で確認しましょう。

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