最終更新日2025.8.11(公開日:2025.8.11)
監修者:営業責任者 渥美 瞬
監修協力:社会保険労務士 河守 勝彦
「役員は社会保険に加入しなければいけないの?」「非常勤でも加入が必要?」 そんな疑問をお持ちの経営者・役員の方も多いのではないでしょうか。 役員の社会保険は、従業員とは異なる判断基準があり、誤った理解や手続きの遅れが大きな問題につながることもあります。
この記事では、社会保険労務士の視点から、役員の社会保険に関する基礎知識を詳しく解説します。加入の条件や必要な手続き、社会保険加入のメリット・デメリット、よくある疑問まで、役員や経営者が知っておくべき重要なポイントをわかりやすくまとめました。この記事を読み終えるころには、役員の社会保険に関する正しい理解が深まり、適切な判断を下すことができるようになるでしょう。
役員の社会保険に関する理解を深めるためには、まず「役員」と「従業員」の違いを正確に把握することが必要です。
従業員の場合、社会保険の加入要件は、労働時間や勤務日数に基づいて決まります。例えば、週の所定労働時間が常時雇用されている従業員の4分の3以上、かつ1カ月の所定労働日数が常時雇用従業員の4分の3以上であれば、社会保険に加入することが求められます。
一方、役員の場合は、労働時間や賃金に基づく判断が適用されず、加入要件は「報酬の有無」「常勤・非常勤の区別」「労務の対価性」などの観点から評価されます。このため、役員の社会保険加入については、特別な取り扱いが求められます。
役員の社会保険には、以下の特徴があります。
■健康保険・厚生年金保険条件を満たす場合、加入対象となります。
■介護保険40歳以上65歳未満で健康保険に加入していれば対象。
■雇用保険原則として役員は対象外(兼務役員など一部例外あり)。
■労災保険原則として対象外ですが、特別加入制度があります。
厚生労働省の通達(昭和24年7月28日保発74号)では、「法人から労務の対価として報酬を受け取っている役員は、使用されている者に該当する」とされています。この点が、役員の社会保険加入の基本的な考え方となります。
役員が社会保険に加入するかどうかは、常勤か非常勤かによって大きく異なります。
常勤役員の場合、原則として役員報酬が支払われている限り、社会保険への加入義務があります。
具体的な加入条件は以下の通りです:
代表取締役や常勤取締役などが該当し、役員報酬が支払われている限り社会保険の適用対象となります。
ただし、報酬が支払われていない場合は加入しません。
非常勤役員の場合、役員報酬の有無に関係なく、原則として社会保険への加入義務はありません。
しかし、実際に非常勤役員が常勤に近い活動をしている場合は、社会保険の加入対象になることがあります。
日本年金機構が定める6つの基準を基に、以下のような点が総合的に判断されます:
非常勤役員が実質的に常勤として活動している場合、社会保険への加入対象となる可能性が高くなります。
常勤・非常勤の判断に迷った場合は、年金事務所に相談することが推奨されます。会社の実情に応じた適切な判断を受けることができます。
役員が社会保険に加入する際、必要な手続きや提出書類は状況によって異なります。
新たに外部から役員が就任する場合、以下の手続きが必要です:
管轄の年金事務所
役員就任から5日以内
社員から役員に昇進した場合、社会保険手続きは基本的に継続加入となりますが、報酬に2等級以上の変動があった場合は「月額変更届」の提出が必要です。
複数の法人で役員報酬を受ける場合には、特別な手続きが必要です。主たる事業所を選択し、各事業所の報酬に応じて保険料を按分計算します。提出書類には「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」や「健康保険被保険者証」が含まれます。
社会保険の手続きは、オンラインシステムを活用することで効率化できます。電子申請を利用することで、手続きの進捗をリアルタイムで確認することが可能です。
役員の社会保険加入には、以下のようなメリットとデメリットがあります。
厚生年金保険に加入することで、国民年金のみの場合と比較して大幅に年金額が増加します。老後の生活保障が充実し、長期的な安心感を得ることができます。
健康保険に加入することで、傷病手当金や出産手当金など、医療保障を受けることができます。また、高額療養費制度により医療費の負担軽減も可能です。
役員が適切に社会保険に加入することで、会社の社会的信用が向上します。これにより、優秀な人材の確保や取引先からの信頼獲得が期待できます。
会社負担分の社会保険料は全額損金算入できるため、法人税の節税効果を得ることができます。
役員と会社の双方に社会保険料の負担が発生します。役員報酬に対して一定割合の保険料を支払う必要があります。
役員の社会保険は従業員のそれと比較して判断基準が複雑であり、適切な手続きを行うには専門知識が求められます。
在職老齢年金制度により、役員報酬と年金の合計額が一定額を超えると年金の一部が支給停止される場合があります。
役員の社会保険料は、役員報酬を基に計算されます。社会保険料は標準報酬月額に保険料率を掛けて算出します。
例えば、東京都で月額報酬が51万円の60歳の役員の場合、以下のような計算となります:
役員の社会保険について、よくある質問を紹介します。
役員報酬がない場合でも社会保険に加入する必要がありますか?
役員報酬が支払われていない場合は加入義務はありませんが、実費弁償がある場合などは加入対象となることもあります。
非常勤役員でも社会保険に加入できますか?
非常勤役員は基本的には加入義務はありませんが、実態に応じて加入の対象になる可能性があります。
適切な社会保険加入には注意が必要です。特に、非常勤役員の判断が難しいため、年金事務所に相談することが推奨されます。また、報酬変更時や勤務実態の変化に応じて、定期的な見直しが求められます。
役員の社会保険は、常勤で役員報酬が支払われていれば原則として加入義務があります。非常勤役員の場合は、実態に応じて加入の可否が判断されます。
適切な加入により、将来の年金保障や医療保障が充実し、社会的信用も向上しますが、保険料負担や手続きの複雑さというデメリットも存在します。
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