nenshuunokabe 【2026年最新】106万円・130万円の壁と「年収の壁・支援強化パッケージ」の実務対応ガイド
【2026年最新】106万円・130万円の壁と「年収の壁・支援強化パッケージ」の実務対応ガイド

最終更新日:2026.03.19(公開日:2026.3.19)
監修者:営業責任者 渥美 瞬
監修協力:社会保険労務士 河守 勝彦

106万円と130万円の境界線

本記事のポイント

  • (1)2023年10月から「年収の壁・支援強化パッケージ」が始動。106万円・130万円の壁を越えても手取りが減らない仕組みを国が支援。
  • (2)キャリアアップ助成金「社会保険適用時処遇改善コース」で、対象労働者1人あたり最大50万円(2025年度拡充後は最大75万円)の助成が受けられる。
  • (3)2026年10月をめどに「106万円の壁(賃金要件)」が撤廃予定。今のうちに制度を活用しながら就業調整を解消する環境づくりが急務。

「もう少し働きたいのに、106万円を超えると手取りが減って損する」
――こんな声を、パートタイマーから聞いたことはありませんか?
最低賃金が大幅に引き上げられた今、シフトを調整しなくても自動的に「壁」を越えてしまうケースが急増しています。

これは労働者の問題ではなく、制度の問題です。国は「年収の壁・支援強化パッケージ」によってこの課題に対応しており、経営者が適切に活用すれば、助成金を受け取りながら人手不足を解消できます。

本記事では、106万円・130万円の壁の仕組みから最新の法改正動向、そして今すぐ使えるキャリアアップ助成金の実務対応まで、経営者が知っておくべき情報を分かりやすく解説します。

「年収の壁」とは何か?106万円の壁・130万円の壁の違いと社会保険の仕組み

「壁」が生まれる理由

パートタイマーやアルバイトで働く方(特に配偶者の扶養に入っている方)は、年収が一定額を超えると社会保険料の負担が発生し、手取り収入が逆に減ってしまうことがあります。この「超えると損をする」ボーダーラインが、いわゆる「年収の壁」です。

壁を冷蔵庫の棚に例えると分かりやすいでしょう。棚(扶養)の中に収まっている間は保険料を払わずに済みますが、少し食べ物(収入)を増やすと棚から落ちてしまい、自分で全部費用を払わなければならなくなる。だから皆、棚からはみ出さないようにギリギリで調整するわけです。

106万円の壁(社会保険の適用)

従業員51人以上の企業に勤めるパートタイマーが、次の要件をすべて満たすと社会保険(健康保険・厚生年金)に加入する義務が生じます。

  • ・週の所定労働時間が20時間以上
  • ・月額賃金が88,000円以上(年収換算で約106万円)
  • ・雇用期間が2か月を超える見込み
  • ・学生ではない

社会保険に加入すると、本人負担分の保険料(標準報酬月額の約14〜15%)が給与から差し引かれるため、手取りが減少します。
これを避けようと労働時間を調整する「就業控え」が起きているのです。

130万円の壁(扶養の認定基準)

106万円の壁に該当しない場合でも、年収が130万円を超えると配偶者の健康保険・厚生年金の被扶養者から外れます。この場合、自ら国民健康保険・国民年金に加入して保険料を支払う必要があります。保険料は全額自己負担となるため、手取りの減少幅は106万円の壁よりさらに大きくなる可能性があります。

また、会社員の配偶者が勤務先から家族手当を受給している場合、扶養から外れることでその手当も失うリスクがあるため、実質的な「壁」はさらに高くなります。

なぜ最低賃金引き上げが「壁問題」を悪化させるのか

時給が上がると意図せず壁を越えてしまう

2025年度の全国平均最低賃金は時給1,100円の大台を突破し、前年に続き過去最大の引き上げ幅を更新しました。これは労働者にとって歓迎すべきことですが、「年収の壁」問題という思わぬ副作用をさらに深刻化させています。

例えば、週20時間・月86時間のパートタイマーが時給1,050円で働いていた場合、年収は約108万円(106万円の壁をわずかに超過)でした。
しかし、時給が1,100円に上がると、同じ時間数でも年収は約113万円となり、本人の意思に関わらず「壁」のさらに奥まで踏み込むことになります。

つまり「頑張って時給を上げてもらったのに、シフトを減らさなければならない」という矛盾が生じているのです。これが人手不足に悩む企業にとっては深刻な問題です。シフトに入れる人材がいるのに、制度の仕組みが原因で稼働時間を制限されるという状況は、本来あってはならないことです。

年収の壁・支援強化パッケージの全体像

2023年10月に始動した国の対応策

こうした問題に対応するため、政府は2023年10月から「年収の壁・支援強化パッケージ」を開始しました。
このパッケージは、主に以下の4つの柱から成り立っています。

施策内容対象の壁
①キャリアアップ助成金(新コース)社会保険適用時に事業主が処遇改善を行った場合、最大50万円を助成106万円の壁
②社会保険適用促進手当の特例手当の社会保険料算定を最長2年間除外できる特例措置106万円の壁
③事業主証明による被扶養者認定一時的収入増は事業主が証明することで最大2年間扶養継続可能130万円の壁
④企業の配偶者手当見直し促進扶養内就労を条件とする手当の見直しを企業に促進全般

このパッケージは、単に「壁を取り除く」のではなく、「壁を越えても手取りが減らないようにする」という現実的なアプローチを取っています。また、2025年度の制度拡充により助成額が最大75万円に引き上げられるなど、企業にとってより使いやすい制度へと進化しています。

ただし、この支援パッケージは年金制度改正が実施されるまでの時限的措置です。経営者はこの「今だけ使える特例」を最大限に活用する視点を持つことが重要です。

キャリアアップ助成金「社会保険適用時処遇改善コース」の活用法

助成の仕組みと3つのメニュー

このコースは、パートタイマーが新たに社会保険に加入する際、事業主が収入増加に向けた取り組みを行った場合に助成されるものです。
申請人数の上限がなく、条件を満たす従業員全員分を申請できる点が特徴です。
助成は以下の3つのメニューから選択できます。

①手当等支給メニュー(最大50万円)

事業主が「社会保険適用促進手当」などを支給することで労働者の収入を増加させる場合の助成です。

  • ・1年目・2年目:標準報酬月額の15%以上を追加支給した場合 → 中小企業で1人あたり20万円
  • ・3年目:基本給を18%以上増額した場合 → 中小企業で1人あたり10万円

2年目に前倒しで3年目の取り組みを実施する場合、2年目の申請でまとめて30万円の支給が可能です。

②労働時間延長メニュー(中小企業:30万円)

所定労働時間を延長して社会保険を適用させる場合の助成です。週の所定労働時間を4時間以上延長するか、時間延長と賃金増額を組み合わせた場合に支給されます。

③併用メニュー(最大50万円)

1年目に手当等支給メニュー、2年目に労働時間延長メニューを組み合わせて実施する場合の助成です。それぞれの要件を満たすことで最大50万円が支給されます。

社会保険適用促進手当とは

社会保険適用促進手当とは、新たに社会保険に加入する際の保険料負担を補うために、通常の給与・賞与とは別に事業主が支給できる特別な手当です。この手当は、標準報酬月額が10万4,000円以下の者を対象に、最長2年間にわたって社会保険料の算定基礎から除外できます。

つまり、手当を支給しても保険料負担が増えにくい特例措置として設計されているのです。ただし、所得税・住民税の課税対象にはなるため、従業員への説明時にはこの点も丁寧に伝えることが重要です。

申請の流れ

キャリアアップ計画書を作成し、都道府県労働局に提出(取組開始前に提出が必要)

社会保険加入手続きを実施(年金事務所へ被保険者資格取得届を提出)

手当支給または労働時間延長を実施

支給申請書と必要書類を管轄の労働局またはハローワークに提出

※申請書類は取り組み開始時期に対応した様式を使用する必要があります。
厚生労働省のウェブサイトから最新様式を確認してください。

130万円の壁への対応:事業主証明制度とは

一時的な収入増でも扶養を外れずに済む特例

130万円の壁対策として設けられているのが「事業主による証明」の仕組みです。繁忙期の残業や欠員補充などによって一時的に収入が増加した場合、事業主が「一時的な収入増である」と証明することで、被扶養者認定が継続されます。

この特例は最大2年間継続して利用できます。ただし、恒常的に130万円を超える収入がある場合は対象外となるため、「毎年この手で乗り切ろう」という運用はできません。

事業主証明の手順

従業員から「収入増加の事情」の申出を受ける

事業主が「一時的な収入変動に関する証明書」を作成・交付

従業員が証明書を配偶者の勤務先健康保険組合または協会けんぽに提出

この手続きは従業員が主体となって行いますが、事業主の証明書なしには成立しません。繁忙期にシフトを増やしたい場合や、欠員補充で一時的に多くシフトに入ってもらう場合など、積極的に活用を案内することで従業員の安心感につながります。

2026年10月「106万円の壁撤廃」で何が変わるのか

2025年6月成立の年金制度改正法の内容

2025年6月13日、年金制度改正法が成立しました。この改正により、社会保険加入の賃金要件(月額8.8万円=年約106万円)が撤廃されることが決定しています。施行は「法律公布から3年以内」と規定されており、すでに全国の最低賃金が1,016円を超えた現状から、2026年10月の施行が有力視されています。

改正のポイント

項目現行(2026年9月まで)改正後(2026年10月〜)
賃金要件月額8.8万円(年約106万円)以上撤廃
労働時間要件週20時間以上週20時間以上(維持)
企業規模要件51人以上段階的に撤廃(2027年10月〜)
実質的な加入基準年収106万円かつ週20時間以上週20時間以上のみ

企業への影響と経営者が今すべき準備

撤廃後は、週20時間以上働く学生以外のパートタイマーは原則として全員が社会保険加入対象になります。これは企業にとって以下の影響をもたらします。

  • ・社会保険料の会社負担増:新たに加入する従業員の人数分、法定福利費が増加する。
  • ・「週20時間の壁」への移行:年収制限がなくなる代わりに、週20時間未満に抑えようとする動きが出る可能性がある。
  • ・人材確保のチャンス:年収を気にせず働けるようになるため、積極的に働きたい人材を確保しやすくなる。

壁の撤廃は確かに企業の保険料負担を増やしますが、同時に「シフトに自由に入れる」状況を作り出す好機でもあります。
今のうちにキャリアアップ助成金を活用して処遇改善を進めておくことで、スムーズな移行が可能になります。

実務対応で押さえるべき3つのポイント

ポイント①:まず自社のパートタイマーを「壁ごと」に把握する

実務対応の第一歩は、自社のパートタイマーの状況を整理することです。
以下の確認事項をリストアップしましょう。

  • ☑ 週20時間以上勤務しているパートタイマーの人数
  • ☑ そのうち月額賃金88,000円前後の「壁ぎわ」にいる従業員の人数
  • ☑ 就業調整をしている(または希望している)従業員がいるか
  • ☑ 自社の企業規模(従業員数51人以上か否か)の確認

ポイント②:「どのメニューで申請するか」を事前に決める

キャリアアップ助成金を受給するには、取り組み開始前にキャリアアップ計画書を提出する必要があります。「後から申請」はできません。対象者と実施メニューを事前に決めてから手続きに入ることが重要です。

メニュー選択の目安:

  • ・すぐに賃金増加で対応したい → 手当等支給メニュー(最大50万円)
  • ・労働時間を増やして対応したい → 労働時間延長メニュー(30万円)
  • ・段階的に両方実施したい → 併用メニュー(最大50万円)

ポイント③:従業員への丁寧な説明と合意形成

就業調整をしている従業員の多くは、「社会保険に加入すると損をする」という認識を持っています。実際には、厚生年金に加入することで将来の年金額が増えるなど、長期的なメリットがある場合も多いです。

企業として社会保険適用促進手当を支給することで手取りをカバーしながら、「壁を越えた方がトータルでは得になる可能性がある」という情報を丁寧に伝えることが、従業員の理解と協力を得る近道です。

よくある質問と経営者が陥りがちな落とし穴

  • Q

    社会保険適用促進手当を支給すれば、従業員の手取りは絶対に減らないのか?

    A

    完全には保証できません。社会保険適用促進手当は社会保険料の算定基礎から除外できますが、所得税・住民税の課税対象にはなります。そのため、収入が増えるにつれて税負担が増し、手当の補填効果が追いつかない「178万円前後の実質的な手取り頭打ちライン」が存在すると指摘されています。これらを踏まえた上で、個別の試算を行い従業員に丁寧に説明することをお勧めします。

  • Q

    キャリアアップ計画書はいつ提出すればいいのか?

    A

    取り組みを開始する日の前日までに提出する必要があります。「先に手当を支給してから申請した」という場合は受給できません。社会保険の加入手続きと並行して、計画書の提出を先行させる意識が重要です。

  • Q

    小規模な企業(従業員50人以下)は支援強化パッケージの対象外か?

    A

    いいえ、対象内です。106万円の壁(月額賃金要件)は51人以上の企業が対象ですが、キャリアアップ助成金の「社会保険適用時処遇改善コース」は企業規模を問わず申請できます。ただし、そもそも従業員50人以下の企業ではパートタイマーに社会保険が適用されないケースも多いため、まず自社の社会保険適用状況を確認することが先決です。

  • Q

    130万円の事業主証明は何度でも使えるのか?

    A

    連続して2年間を上限とする措置です。「毎年繁忙期に同じように収入が増える」という状況は「一時的な変動」とはみなされません。活用できる状況は限られているため、正しく理解した上で従業員に案内してください。誤った情報提供は後々のトラブルにつながります。

  • Q

    支援強化パッケージはいつまで使えるのか?

    A

    キャリアアップ助成金「社会保険適用時処遇改善コース」は2025年度末(2026年3月31日)までに社会保険を新規適用させた場合が対象です。2026年10月の壁撤廃前に制度が一旦終了する可能性があるため、今すぐ活用を検討することが重要です。なお、今後の制度延長や改正については厚生労働省の最新情報を確認してください。

まとめ:今すぐ取るべきアクションリスト

要点の整理

「年収の壁」問題は、最低賃金の引き上げが進む中でますます顕在化しており、放置すれば人手不足の深刻化につながります。
一方、政府が用意した「年収の壁・支援強化パッケージ」を活用すれば、助成金を受けながら従業員の処遇改善と就業調整の解消を同時に実現できます。

改正の核心:

  • ・106万円の壁(賃金要件)は2026年10月をめどに撤廃予定
  • ・キャリアアップ助成金で1人あたり最大50〜75万円の助成が受けられる(2025年度末まで)
  • ・130万円の壁は事業主証明で最大2年間の猶予が可能
視点内容
メリット
(活用した場合)
助成金による人件費補填・従業員の手取り維持・人手不足解消・早期の制度準備
デメリット
(対応しない場合)
就業調整が続き人手不足が悪化・2026年壁撤廃時に突然コスト増・助成金の申請機会を逃す

今すぐ取るべき3つのアクション

アクション①(緊急度:高)

自社のパートタイマーの就業状況を確認し、「壁ぎわ」にいる従業員を特定する。その上で、キャリアアップ助成金の対象となる従業員数と想定助成額を試算する。

アクション②(緊急度:高)

2025年度末(2026年3月31日)までの助成金申請に向けて、キャリアアップ計画書の準備を開始する。取り組み前に計画書の提出が必須のため、早めの着手が不可欠。

アクション③(緊急度:中)

2026年10月の「106万円の壁撤廃」を見据えた給与・労務管理体制の見直しに着手する。新たに社会保険加入となる従業員への対応(資格取得届の提出体制、保険料計算の準備など)を整備しておく。

専門家に相談すべきケース

以下のような場合は、社会保険労務士等の専門家への相談をお勧めします。

  • ・パートタイマーの人数が多く、助成金の試算が複雑な場合
  • ・キャリアアップ計画書の作成・申請手続きを代行してほしい場合
  • ・2026年以降の社会保険適用拡大に向けた給与制度・就業規則の見直しが必要な場合
  • ・同一労働同一賃金も含めた包括的な非正規雇用管理の整備が必要な場合

「年収の壁」をめぐる制度は今まさに大きな転換点を迎えています。助成金という「後押し」がある今こそ、制度変化に先手を打って対応することが、人材確保と経営の安定につながります。

参考情報源

厚生労働省「年収の壁・支援強化パッケージ」

厚生労働省「キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)Q&A」

政府広報オンライン「年収の壁・支援強化パッケージ対策がスタート」

【経営者向け実務補足】

「106万円の壁」「130万円の壁」問題は単なる個人の働き方の問題ではなく、企業の人件費戦略・法定福利費管理・人材確保戦略に直結する経営課題です。特に2026年10月以降の制度変更を見据え、社会保険料の会社負担増を試算したうえで、助成金活用と処遇設計を同時に検討する視点が重要です。

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