mudankekkin 会社の無断欠勤への処遇と対応 | 懲戒・解雇・給与の取り扱いから予防策まで社労士が解説
会社の無断欠勤への処遇と対応|懲戒・解雇・給与の取り扱いから予防策まで社労士が解説

最終更新日:2025.10.11(公開日:2025.7.10)
監修者:営業責任者 渥美 瞬
監修協力:社会保険労務士 河守 勝彦

無断欠勤の欠勤に電話をかけている様子

無断欠勤は、労働者・企業双方にとって深刻な問題となり得る労務トラブルです。
適切な対応を怠ると、労使関係の悪化や法的紛争に発展するリスクがあります。
本記事では、無断欠勤の法的取り扱いから具体的な対応方法、予防策まで、社会保険労務士が実務的な観点から包括的に解説します。

無断欠勤とは?労働法に基づく定義と法的位置づけ

無断欠勤の定義

無断欠勤とは、事前の連絡や許可なく労働者が所定の勤務日に出勤しないことを指します。労働契約上、労働者には「労務提供義務」があるため、無断欠勤はこの基本的な義務に違反する行為となります。

法的根拠と位置づけ

労務提供義務との関係

労働契約法第3条により、労働者は使用者に対して労働力を提供する義務を負います。無断欠勤は、この労務提供義務の不履行にあたり、債務不履行(民法第415条)として法的責任を法的責任を問われ得ます。

就業規則での規定

多くの企業では、就業規則において無断欠勤を懲戒事由として明確に規定しています。厚生労働省のモデル就業規則でも、無断欠勤は懲戒処分の対象となる服務規律違反として例示されています。

無断欠勤が企業に与える影響

直接的影響

  • ・業務の遅延・停滞
  • ・生産性の低下
  • ・他の従業員への負担増加

間接的影響

  • ・職場の士気低下
  • ・取引先との信頼関係への悪影響
  • ・プロジェクトスケジュールの遅延
  • ・企業の社会的信用失墜

労働者向け|無断欠勤時の処遇と対処法

懲戒処分の種類と段階

無断欠勤が発覚した場合、就業規則に基づいて以下のような懲戒処分を受ける可能性があります。

懲戒処分の段階

処分の種類内容適用例
口頭注意口頭での指導・注意初回の軽微な無断欠勤
書面警告文書による厳重注意再度の無断欠勤
減給処分給与の一部減額継続的な無断欠勤
出勤停止一定期間の出勤禁止重大・悪質な無断欠勤
諭旨解雇退職勧奨による退職改善の見込みがない場合
懲戒解雇予告なしの即時解雇極めて悪質な場合

処分決定の考慮要素

  • ・無断欠勤の回数と期間
  • ・欠勤の理由と悪質性
  • ・会社業務への影響度
  • ・本人の反省・改善意欲
  • ・過去の勤務態度

解雇の要件と法的制限

解雇の法的要件

無断欠勤を理由とする解雇には、労働契約法第16条の厳格な要件があります:

  • 1. 客観的合理的理由:社会通念上、解雇がやむを得ないと認められる事由
  • 2. 社会通念上の相当性:解雇という重い処分が妥当と判断される状況

無効となりやすい解雇例

  • ・初回の無断欠勤での即日懲戒解雇
  • ・適正な手続きを経ない解雇
  • ・弁明の機会を与えない解雇
  • ・やむを得ない事情(病気・事故等)を考慮せずに行う解雇

不当解雇への対処方法

解雇が無効の場合の対応

1. 労働基準監督署への相談

  • ・解雇予告手当の未払い等の相談
  • ・労働基準法違反の申告

2. 労働局のあっせん制度利用

  • ・都道府県労働局での調停
  • ・費用負担なく迅速な解決が可能

3. 労働審判・訴訟の検討

  • ・地位確認請求
  • ・未払い賃金の請求

証拠保全の重要性

  • ・雇用契約書・就業規則の保管
  • ・無断欠勤に至った経緯の記録
  • ・会社とのやりとり(メール・書面)の保存

無断欠勤時の給与・賞与への影響と控除計算方法

ノーワーク・ノーペイの原則

基本的な考え方

無断欠勤日の給与は「ノーワーク・ノーペイの原則」により、会社に支払い義務はありません。労働の対価として賃金が支払われるため、労務提供がない日の賃金は発生しないのが原則です。

給与控除の計算方法

月給制の場合

  • 控除額 = 月給 ÷ その月の所定労働日数 × 無断欠勤日数
  • 計算例
  • 月給:300,000円
  • 所定労働日数:20日
  • 無断欠勤日数:2日
  • 控除額:300,000円 ÷ 20日 × 2日 = 30,000円

時給制の場合

  • 控除額 = 時給 × 無断欠勤日の所定労働時間

有給休暇の事後申請について

原則と例外

有給休暇は原則として事前申請が必要ですが、以下の場合は事後の届出でも認められることがあります:

認められる可能性が高いケース

  • ・急病・事故による緊急事態
  • ・家族の急病・不幸
  • ・自然災害等の不可抗力

認められにくいケース

  • ・単なる体調不良(事前連絡可能)
  • ・私的な都合
  • ・寝坊等の本人の過失

会社の裁量による事後承認

労働基準法上、会社が無断欠勤を事後的に有給扱いとすることは可能です。
ただし、これは会社の恩恵的措置であり、労働者の権利ではありません。

賞与・昇給への影響

人事評価への影響

無断欠勤は通常、以下の評価項目に悪影響を与えます:

  • ・勤怠評価
  • ・責任感・信頼性の評価
  • ・チームワーク評価

具体的な不利益

  • ・賞与の減額・不支給
  • ・昇給の見送り
  • ・昇進・昇格の延期
  • ・査定評価の低下

ただし、過度な処分は労働契約法第16条により無効となる場合があります。

企業が取るべき無断欠勤への対応手順

初期対応フローチャート

無断欠勤発生

安否確認(最優先)

  • 電話連絡
  • メール・SMS
  • 緊急連絡先への連絡
  • 必要に応じ自宅訪問

状況記録・証拠保全

  • 発生時刻・状況の記録
  • 連絡試行の記録
  • 業務への影響記録
  • 関係者証言の収集

本人との面談実施

  • 欠勤理由の聴取
  • 改善意欲の確認
  • 必要なサポートの検討
  • 面談内容の書面記録

対応方針の決定

  • 指導・注意
  • 懲戒処分
  • サポート提供
  • 専門機関との連携

安否確認の重要性

法的義務と実務上の配慮

企業には従業員の安全配慮義務(労働契約法第5条)があります。
無断欠勤が発生した場合、まず従業員の安否を確認することが法的・道義的責任となります。

安否確認の具体的手順

  • 1. 本人への直接連絡(30分間隔で複数回試行)
  • 2. 緊急連絡先への連絡(就業規則で届出義務化)
  • 3. 必要に応じた自宅訪問(複数名で実施、記録作成)
  • 4. 警察への相談(行方不明が疑われる場合)

法的リスクを回避する対応方法

適正手続きの確保

懲戒処分を行う場合は、以下の手続きを厳格に守る必要があります:

事前調査

  • ・事実関係の正確な把握
  • ・関係者からの事情聴取
  • ・客観的証拠の収集

弁明機会の付与

  • ・本人からの事情聴取
  • ・弁明書の提出機会
  • ・必要に応じた代理人の同席許可

処分の相当性判断

  • ・過去の同種事例との比較
  • ・本人の反省・改善意欲
  • ・会社への実害の程度

記録作成の重要性

すべての対応について、以下の記録を作成・保管します:

  • 日時・場所・出席者
  • 発言内容・確認事項
  • 提出書類・証拠資料
  • 決定事項・今後の予定

懲戒処分実施時の注意点

就業規則の整備確認

  • ・懲戒事由の明確な規定
  • ・処分の種類と基準
  • ・手続きの詳細規定
  • ・従業員への周知状況

処分の段階性

労働契約法第15条(懲戒権の濫用禁止)を踏まえ、以下の段階的対応を原則とします:

  • 1. 初回: 口頭注意・指導
  • 2. 再発: 書面警告
  • 3. 継続: 減給・出勤停止
  • 4. 悪質・重大: 諭旨解雇・懲戒解雇

無断欠勤の予防策と職場環境整備

制度面での予防策

就業規則の整備

無断欠勤の予防には、まず適切な制度設計が不可欠です:

明確な規定項目

  • ・無断欠勤の定義
  • ・報告手順・連絡方法
  • ・懲戒処分の基準
  • ・改善機会の提供

連絡体制の確立

  • ・複数の連絡手段の用意
  • ・緊急連絡先の届出義務
  • ・24時間対応可能な連絡先
  • ・代理連絡者の指定

勤怠管理システムの活用

ICカードやスマートフォンを活用した勤怠管理システムにより、異常な勤怠パターンを早期に検知できる体制を整えます:

システム機能の例

  • ・リアルタイム出勤状況把握
  • ・遅刻・欠勤の自動アラート
  • ・勤怠パターン分析
  • ・管理者への即時通知

職場環境の整備

ワークライフバランスの推進

無断欠勤の背景には、しばしば過度な業務負担やストレスがあります:

制度整備例

  • ・フレックスタイム制度の導入
  • ・有給休暇取得の促進
  • ・残業時間の適切な管理
  • ・在宅勤務制度の検討

メンタルヘルスケア体制

法的要請への対応 労働安全衛生法第66条の10に基づくストレスチェックの実施:

  • ・年1回の実施義務(50人以上の事業場)
  • ・高ストレス者への面接指導
  • ・職場環境改善の実施

産業医・産業保健師との連携

  • ・定期的な健康相談
  • ・メンタルヘルス研修の実施
  • ・復職支援プログラムの整備

コミュニケーション強化策

管理職向け研修

メンタルヘルスマネジメント研修
  • ・部下の変化への気づき方
  • ・適切な声かけ・相談対応
  • ・専門機関との連携方法
効果的なコミュニケーション研修
  • ・1on1ミーティングの実施方法
  • ・傾聴スキルの向上
  • ・問題の早期発見・対応
従業員サポート体制

キャリア開発支援

  • ・スキルアップ研修の提供
  • ・キャリアカウンセリング
  • ・配置転換・異動の検討
健康管理支援
  • ・定期健康診断の充実
  • ・健康相談窓口の設置
  • ・EAP(従業員支援プログラム)の導入

実践ツール|チェックリストと対応フロー

企業用対応チェックリスト

【緊急時対応】
無断欠勤発生時(初日)

  • 所定時刻から30分経過時点で本人に電話連絡
  • メール・SMSでの連絡試行
  • 上司・同僚への状況確認
  • 緊急連絡先への連絡(2時間経過後)
  • 業務分担の調整・代替要員の確保
  • 発生状況・対応経過の記録作成
  • 必要に応じて自宅訪問の検討
  • 翌日以降の対応方針検討

【継続対応】
無断欠勤2日目以降

  • 継続的な安否確認
  • 人事部門・上級管理者への報告
  • 就業規則の該当条項確認
  • 過去の同種事例の調査
  • 法的リスクの検討
  • 専門家(社労士・弁護士)への相談検討
  • 懲戒処分手続きの準備

【復帰時対応】
本人出社時

  • 速やかな面談実施
  • 欠勤理由の詳細聴取
  • 健康状態・メンタル面の確認
  • 改善意欲・今後の対応の確認
  • 必要なサポートの検討
  • 面談内容の書面記録
  • 懲戒処分の要否判断
  • 再発防止策の策定

労働者用確認事項リスト

【予防】
日頃から準備すべき事項

  • 会社の連絡先(複数)の把握
  • 緊急時の連絡手順の確認
  • 就業規則の勤怠関連規定の理解
  • 有給休暇の申請方法の確認
  • 体調管理・健康維持
  • 職場のストレス要因の把握
  • 相談窓口の確認

【緊急時】
やむを得ず欠勤する場合

  • 可能な限り事前の連絡
  • 複数手段での連絡試行
  • 欠勤理由の明確な説明
  • 復帰予定日の連絡
  • 業務引継ぎ・代替対応の依頼
  • 医師の診断書等の準備(病気の場合)
  • 連絡記録の保存

【事後対応】
復帰時の確認事項

  • 速やかな出社・報告
  • 欠勤理由の詳細説明
  • 改善策・再発防止策の提示
  • 必要な書類(診断書等)の提出
  • 今後の勤務への意欲表明
  • 上司・同僚への謝罪
  • 業務キャッチアップの実施

業界別対応事例

製造業の場合

特殊事情
  • ・ライン作業への直接的影響
  • ・安全性への影響
  • ・代替要員確保の困難
対応ポイント
  • ・即座の代替要員手配
  • ・安全確認の徹底
  • ・生産計画への影響評価

サービス業の場合

特殊事情
  • ・顧客対応への直接的影響
  • ・シフト制勤務の調整
  • ・繁忙期の影響度
対応ポイント
  • ・顧客への影響最小化
  • ・シフト調整・代替確保
  • ・顧客満足度の維持

IT業界の場合

特殊事情
  • ・プロジェクト進行への影響
  • ・在宅勤務の普及
  • ・専門性の高い業務
対応ポイント
  • ・プロジェクト影響度評価
  • ・リモート勤務状況の確認
  • ・技術的引継ぎの実施

よくある質問

労働者からの質問

  • Q

    体調不良で連絡できずに無断欠勤してしまいました。後から有給休暇にできますか?

    A

    体調不良等で連絡できない緊急事態の場合、事後の有給申請が認められる可能性があります。重要なのは、回復次第すぐに会社へ連絡し、詳細な事情を説明することです。医師の診断書等があると、やむを得ない事情として理解されやすくなります。ただし、事後の有給適用は会社の判断によるため、必ずしも認められるわけではありません。

  • Q

    無断欠勤を理由に即日解雇されました。これは有効ですか?

    A

    原則として、単発の無断欠勤による即日解雇は「客観的合理的理由」や「社会通念上の相当性」を欠き、無効となる場合が多いです。適正な手続き(弁明機会の付与等)も必要です。不当解雇と思われる場合は、労働基準監督署や都道府県労働局のあっせん制度、専門家への相談をお勧めします。

  • Q

    無断欠勤が理由で昇進できなくなることはありますか?

    A

    無断欠勤は勤怠評価や信頼性評価に悪影響を与えるため、昇進・昇格に影響する可能性があります。ただし、過度に長期間にわたって不利益を課すことは、労働契約法に抵触する可能性があります。改善の意欲を示し、良好な勤務態度を継続することで、評価の回復は可能です。

企業からの質問

  • Q

    部下が無断欠勤を繰り返す場合、どう対応すべきですか?

    A

    まず本人との面談を実施し、原因の把握と環境整備を検討してください。改善が見られない場合は、就業規則に基づく段階的な懲戒処分を検討しますが、必ず適正な手続きと記録の作成が必要です。メンタルヘルスの問題が疑われる場合は、産業医や専門機関との連携も重要です。

  • Q

    無断欠勤時の給与はどう計算すればよいですか?

    A

    「月給÷所定労働日数×欠勤日数」で控除します。ただし、事後に有給休暇として承認する場合は支給となります。減給の懲戒処分を行う場合は、労働基準法第91条の制限(1回の額が平均賃金の1日分の半額以下、総額が一賃金支払期間の賃金総額の10分の1以下)に注意が必要です。

  • Q

    無断欠勤が3日続いたら懲戒解雇できますか?

    A

    一概に3日で即座に懲戒解雇することは、法的リスクが高いと考えられます。解雇には「客観的合理的理由」と「社会通念上の相当性」が必要であり、就業規則の規定、本人の事情、過去の対応、会社への影響等を総合的に判断する必要があります。段階的な懲戒処分と適正な手続きが重要です。

共通の質問

  • Q

    懲戒解雇された場合、履歴書にはどう書けばよいですか?

    A

    法的には「懲戒解雇」と記載する義務はなく、「一身上の都合により退職」と記載することが一般的です。ただし、転職先の企業が前職調査を行う場合もあるため、面接時に事情を説明する準備をしておくことをお勧めします。具体的な対応は個別事情により異なるため、専門家にご相談ください。

  • Q

    コロナ禍で在宅勤務中の無断欠勤はどう扱われますか?

    A

    在宅勤務中でも労務提供義務は同じです。ただし、通勤時間がない分、体調不良等での連絡は通常より容易なはずです。PCやシステムへのログイン記録、オンライン会議への参加状況等で勤務実態を確認し、通常の無断欠勤と同様に対応することになります。

まとめ|困った時の相談先

無断欠勤は、労働者・企業双方にとって重大なリスクを伴う労務問題です。
適切な初期対応と段階的な解決により、多くの場合は円満な解決が可能ですが、法的知識と実務経験に基づく判断が不可欠です。

重要ポイントの再確認

労働者の方へ

  • ・やむを得ない事情でも、可能な限り事前連絡を心がける
  • ・無断欠勤後は速やかな報告と改善意欲の表明が重要
  • ・不当な処分を受けた場合は、専門機関への相談を躊躇しない

企業の方へ

  • ・安否確認を最優先とし、適正な手続きを厳格に守る
  • ・懲戒処分は段階的に、記録作成を徹底する
  • ・予防策として職場環境整備とコミュニケーション強化が重要

専門機関への相談

労働基準監督署

  • ・労働基準法違反の申告
  • ・解雇予告手当等の未払い相談
  • ・費用:無料

都道府県労働局(あっせん制度)

  • ・労働紛争の調停
  • ・迅速な解決が期待できる
  • ・費用:無料

社会保険労務士

  • ・就業規則の整備・見直し
  • ・労務管理全般の相談
  • ・予防策の検討

弁護士

  • ・法的紛争への対応
  • ・労働審判・訴訟の代理
  • ・複雑な案件の解決

困った時は一人で抱え込まず、早めに専門機関へご相談ください。適切な対応により、労使双方にとって最良の解決を目指しましょう。

なお、具体的な案件への対応については、労働基準法、労働契約法、労働安全衛生法等の関連法令を踏まえ、個別の事情に応じた専門家の助言を受けることを強くお勧めします。

無断欠勤対応や就業規則整備、労務トラブルのご相談は当事務所までお気軽にどうぞ!
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