最終更新日:2025.10.10(公開日:2025.10.9)
監修者:営業責任者 渥美 瞬
監修協力:社会保険労務士 河守 勝彦
コロナ禍を機に急速に普及したハイブリッドワーク。オフィス勤務と在宅勤務を組み合わせる働き方は、もはや一時的な対応策ではなく、多くの企業で恒常的な制度として定着しています。しかし、「労働時間の管理はどうすればよい?」「評価制度は従来のままで大丈夫?」といった疑問を抱える人事担当者も少なくないでしょう。
この記事では、ハイブリッドワーク時代における労働時間管理の法的要件から実務上の注意点、さらには適切な評価制度設計まで、社会保険労務士の視点から詳しく解説します。読み終えることで、あなたの会社でも適切で効率的なハイブリッドワーク運営が実現できるはずです。
ハイブリッドワークとは、従業員がオフィス勤務と在宅勤務(テレワーク)を自由に組み合わせて働く制度のことです。例えば、週3日はオフィス、週2日は在宅といった具合に、業務内容や個人の事情に応じて勤務場所を選択できます。
船に例えるなら、従来の働き方は決まった航路を進む定期船のようなものでした。一方、ハイブリッドワークは目的地に向かいながらも、天候や海況に応じて最適なルートを選択できるヨットのような柔軟性を持っています。
総務省の「令和5年通信利用動向調査」によると、テレワークを導入している企業の割合は51.7%に達し、そのうち約7割がハイブリッド型の運用を行っています。特に従業員300人以上の企業では、導入率が80%を超えるなど、もはや大企業では標準的な働き方となっているのです。
実際の運用では、以下のような形態が多く見られます:
曜日や日程を事前に決めて運用(例:月・水・金はオフィス)
従業員が業務に応じて自由に選択
チーム単位で勤務場所を調整
部署内で順番に在宅勤務を実施
ハイブリッドワークの導入で、労働時間管理は従来よりも複雑になりました。
これは、コンサートホールでの演奏とストリート演奏を同時に管理するような難しさがあります。
場所が違えば環境も変わり、それに応じた対応が必要になるのです。
オフィスにいれば目視で確認できた勤務状況が、在宅勤務では見えなくなります。
「本当に働いているのか」「時間外労働はどれくらいか」といった基本的な事柄の把握が困難になるケースが多発しています。
自宅では私生活との境界が曖昧になりがちです。
夕食後にメールを確認したり、休日に資料作成をしたりと、いつの間にか労働時間が延びてしまう問題があります。
オフィスなら気軽にできた相談や報告が、在宅勤務では意図的なコミュニケーションが必要になります。
このため、会議や連絡に費やす時間が増加する傾向があります。
労働基準法では、使用者に労働時間の適正な把握義務があります。
ハイブリッドワークでも、この義務は変わりません。適切な管理ができていない場合、労働基準監督署からの指導や、未払い残業代請求といったリスクが生じる可能性があります。
実際に、在宅勤務中の長時間労働が問題となり、労働基準監督署から是正勧告を受けた企業も出てきています。
ハイブリッドワークにおいても、労働基準法の適用は通常の勤務と変わりません。
しかし、在宅勤務特有の課題があるため、より細やかな配慮が必要です。
労働安全衛生法第66条の8の3及び関連省令により、使用者には客観的な方法による労働時間の把握が義務づけられています。
これは「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」で詳しく規定されています。
在宅勤務では、一定の条件を満たす場合に事業場外みなし労働時間制の適用が可能です。
ただし、以下の条件を満たす必要があります:
在宅勤務では、深夜や休日の労働が発生しやすくなります。これらの時間外労働には割増賃金の支払いが必要であり、適切な管理が求められます。
在宅勤務では、昼休み以外にも私用で中抜けする場合があります。これらの時間を労働時間から除外する場合は、明確な規定と適切な管理が必要です。
ハイブリッドワークでの労働時間管理は、デジタルツールの活用が不可欠です。
これは、複数の店舗を運営する際に、統一されたPOSシステムで売上を一元管理するのと同様の考え方です。
勤務開始・終了時刻がリアルタイムで把握でき、管理者が随時確認できるシステムが理想的です。
PCのログ情報やアプリケーションの使用時間など、客観的なデータを自動収集できる機能が重要です。
残業申請や有給休暇申請など、各種手続きをオンラインで完結できる機能があると効率的です。
労働時間管理を効果的に行うには、明確なルール設定が不可欠です:
従来の評価制度は、オフィスでの行動や姿勢を重視する傾向がありました。
しかし、ハイブリッドワークでは、成果と効率性を中心とした評価制度への転換が必要です。
これは、工場での生産性評価から、研究開発部門のような成果重視の評価への変化と似ています。
ハイブリッドワークでは、定量的で測定可能な目標設定が重要です。
「売上目標○○万円達成」「プロジェクト△△を期限内完成」といった具合に、成果が明確に判定できる目標を設定します。
従来の「頑張っている姿勢」よりも、「どのような手法で目標を達成したか」「チームにどのような貢献をしたか」といった結果につながるプロセスを評価対象とします。
実際にハイブリッドワークを成功させている企業の事例を見てみましょう。
これらの事例は、他社での成功パターンを自社に応用するためのヒントになります。
週3日オフィス、週2日在宅の固定型ハイブリッドワークを導入。労働時間管理はクラウド型勤怠システムとPC監視ツールを併用。
管理部門のみハイブリッドワークを導入。選択型で月の在宅勤務日数を8日まで認める制度。
これらの成功事例から見えてくる共通要素は以下の通りです:
成功企業は例外なく、在宅勤務のルールを詳細に定めています。曖昧な部分を残すと、後々トラブルの原因となるためです。
労働時間管理システム、コミュニケーションツール、セキュリティ対策など、技術的基盤をしっかりと整備しています。
従来の「管理=監視」から「管理=支援」への発想転換を行い、管理職向けの研修を実施しています。
いきなり全社展開するのではなく、部門限定でのトライアル運用から始めて、段階的に拡大しています。
ハイブリッドワークの運用では、予想しなかった課題が発生することがあります。
事前に対策を講じておくことで、スムーズな運用が可能になります。
在宅勤務では時間外労働が見えにくくなり、申告されない残業(サービス残業)が発生しやすくなります。
通勤時間がなくなることで、その分長く働いてしまう従業員が出てきます。
物理的に離れて働くことで、チームワークや帰属意識の低下が問題となります。
在宅勤務者とオフィス勤務者の間で、評価に差が出るのではないかという不安が生じます。
ハイブリッドワークは、適切に運用すれば従業員と企業の両方にメリットをもたらす働き方です。
しかし、そのためには従来の労働時間管理と評価制度の見直しが不可欠です。
もしあなたの会社でハイブリッドワークの導入や見直しを検討されているなら、以下のステップで進めることをおすすめします:
ハイブリッドワークの成功は、制度設計だけでなく、運用面での継続的な改善が鍵となります。
従業員の声に耳を傾けながら、柔軟に制度を見直していくことが重要です。
労働時間管理や評価制度の具体的な設計については、労働関連法規の専門知識が必要な場合も多々あります。不安な点がございましたら、社会保険労務士などの専門家にご相談いただくことで、より安全で効果的なハイブリッドワーク制度を構築できるでしょう。
働き方の多様化が進む現代において、ハイブリッドワークは企業の競争力向上と従業員の働きがいの両方を実現する重要な選択肢です。適切な準備と運用により、必ずや貴社の発展に寄与するはずです。