denshichoubo 電子帳簿保存法対応で人事労務書類はどう変わる?2025年最新の実務ガイド
電子帳簿保存法対応で人事労務書類はどう変わる?2025年最新の実務ガイド

最終更新日:2025.11.16(公開日:2025.11.16)
監修者:営業責任者 渥美 瞬
監修協力:社会保険労務士 河守 勝彦

人事労務の二人が考えている様子

2024年1月から電子帳簿保存法の猶予期間が終了し、多くの企業で対応が本格化しています。特に人事労務部門では、給与明細や雇用契約書、タイムカードなど膨大な書類のデジタル化が求められ、「何から手をつければいいのか」と悩んでいる担当者も多いのではないでしょうか。

本記事では、社会保険労務士の視点から、電子帳簿保存法対応の実務的なポイントと、人事労務書類を効率的にデジタル化する方法を解説します。法改正の不安を解消し、スムーズな対応を実現するための具体的なステップをご紹介します。

電子帳簿保存法とは?人事労務担当者が知っておくべき基礎知識

電子帳簿保存法は、国税関係の帳簿や書類を電子データで保存することを認める法律です。1998年に制定され、何度も改正を重ねてきました。

実は、人事労務の現場でこの法律が大きな影響を持つようになったのは、2022年1月の改正からです。この改正で電子取引データの電子保存が義務化されました。つまり、メールやクラウドシステムでやり取りした請求書や契約書は、原則として電子データのまま保存しなければならなくなったのです。

私が担当している企業の人事担当者からも、「今まで紙で印刷して保存していたのに、それがダメになるんですか?」という質問を何度も受けました。法改正の背景には、社会全体のデジタル化推進と、税務調査の効率化という国の方針があります。

人事労務部門で扱う書類の多くは、直接的には国税関係書類ではありません。しかし、給与計算に関わる書類や、外部業者との契約書など、電子帳簿保存法の対象となる書類は意外と多いのです。さらに、労働基準法や社会保険関係法令でも書類の保存義務がありますから、それらとの整合性を取りながら対応する必要があります。

電子帳簿保存法が求める3つの要件

真実性の確保:

データが改ざんされていないことを証明できる仕組み

可視性の確保:

必要な時にすぐに検索・表示できる状態

適切な保存期間:

法令で定められた期間、確実に保存できる体制

この3つを満たすことが、電子帳簿保存法対応の基本となります。

2025年における電子帳簿保存法対応の最新状況

2024年1月に2年間の猶予期間が終了し、現在は電子取引データの電子保存が完全義務化されています。ただし、実務的には一定の経過措置も設けられており、対応状況は企業によってさまざまです。

国税庁の調査によれば、2024年時点で電子帳簿保存法に完全対応している企業は全体の約40%程度。中小企業では対応が遅れている傾向にあります。人事労務部門に限ると、給与計算システムは電子化が進んでいるものの、雇用契約書や労働条件通知書などの文書管理は、まだ紙ベースの企業も多いのが現状です。

2025年の今、重要なのは「もう対応が遅い」と諦めるのではなく、「今から着実に進める」という姿勢です。実際、私がサポートしている企業でも、2024年後半から対応を始めて、半年程度で基本的な体制を整えた事例がいくつもあります。

現在の対応状況でよくあるパターン

1. すでに対応完了:

クラウドシステムを導入し、電子取引データを適切に保存

2. 部分的に対応:

一部の書類のみ電子化し、完全対応に向けて移行中

3. 未対応:

紙での保存を続けているが、法令違反のリスクを抱えている

未対応の場合、税務調査で指摘を受けるリスクがあります。青色申告の承認取消などの重大なペナルティはすぐには発生しませんが、適正な対応が求められる状況です。

人事労務書類のデジタル化:どの書類が対象になる?

人事労務部門で扱う書類は多岐にわたりますが、電子帳簿保存法の対象となるのは主に「電子取引」に該当するものです。具体的に見ていきましょう。

電子帳簿保存法の対象となる主な人事労務書類

給与計算関係:

給与ソフトから出力した給与明細のデータ、源泉徴収票のデータ

社会保険関係:

電子申請で提出した届出の控えデータ

外部業者との取引:

人材紹介会社からの請求書(メール添付やクラウド経由)、研修会社からの領収書データ

システム利用料:

勤怠管理システムや給与計算システムの請求書データ

一方、従業員との間でやり取りする雇用契約書や労働条件通知書は、現時点では電子帳簿保存法の直接の対象ではありません。ただし、電子署名を使って締結した場合は、適切に保存する必要があります。

対象外だが関連する書類

  • ・雇用契約書(紙で締結した場合は労働基準法に基づき保存)
  • ・労働者名簿
  • ・出勤簿(タイムカード含む)
  • ・年次有給休暇管理簿

これらは労働基準法や社会保険関係法令で保存義務がありますが、電子帳簿保存法の対象ではないため、紙での保存も可能です。ただし、効率化の観点からデジタル化を進める企業が増えています。

ここで混乱しやすいのが、「電子取引」の定義です。例えば、取引先からメールで請求書PDFを受け取った場合、それを印刷して保存するだけでは不十分。元の電子データを規定に従って保存する必要があります。つまり、「受け取った形式で保存する」というのが基本原則なのです。

電子帳簿保存法対応の3つの区分と実務への影響

電子帳簿保存法には3つの保存区分があり、それぞれ要件が異なります。人事労務担当者が特に理解しておくべきポイントを解説します。

1. 電子帳簿等保存

自社で作成した帳簿や書類を、最初から電子データで作成し保存する場合の規定です。給与計算ソフトで作成した給与台帳などがこれに該当します。

実務への影響:

給与計算システムを使っている企業であれば、すでに実質的に対応できている場合が多いです。ただし、要件を満たすシステムかどうかの確認が必要です。

2. スキャナ保存

紙で受け取った書類をスキャンして電子保存する場合の規定です。例えば、従業員から提出された紙の扶養控除申告書をスキャンする場合などです。

実務への影響:

2022年の改正でタイムスタンプ要件が緩和され、対応しやすくなりました。ただし、スキャン後の原本廃棄には慎重な判断が必要です。特に人事労務書類は、労働基準法などで原本保存が求められる場合もあるため、法令の確認が欠かせません。

3. 電子取引データ保存

これが2024年から完全義務化された部分です。メールやクラウドシステムで受け取った請求書、契約書などの電子データを、そのまま電子保存する必要があります。

実務への影響:

人事労務部門では、社会保険労務士や税理士からの電子データ、人材紹介会社からの請求書データなどが該当します。この区分の対応が最も重要かつ急務です。

電子取引データ保存には、以下の要件があります。

1. 改ざん防止措置:

タイムスタンプの付与、または訂正削除の記録が残るシステムの使用

2. 検索機能の確保:

取引年月日、取引金額、取引先で検索できること

3. 見読可能性の確保:

パソコンやモニターで明瞭に表示できること

中小企業の場合、税務署職員の求めに応じてデータのダウンロードができれば、検索機能は一部省略可能という特例もあります。

人事労務部門が直面する電子帳簿保存法対応の課題

実際に電子帳簿保存法対応を進めようとすると、様々な壁にぶつかります。私が現場で聞いた悩みをもとに、よくある課題を整理しました。

1. 「どこから手をつければいいか分からない」

書類の種類が多岐にわたり、それぞれ保存期間や法的要件が異なるため、全体像を把握するだけで一苦労です。特に、総務・経理・人事が連携せずに個別対応すると、社内でバラバラなルールができてしまう恐れがあります。

2. 既存のシステムが対応していない

古い給与計算システムや勤怠管理システムを使っている場合、電子帳簿保存法の要件を満たしていないケースがあります。システムの入れ替えには費用も時間もかかるため、経営層の理解と承認が必要になります。

3. 従業員の理解と協力が得られない

「今まで紙でやってきたのに、なぜ変える必要があるのか」という抵抗感を持つ従業員もいます。特に、年配の社員や紙文化に慣れた部署では、デジタル化への心理的ハードルが高い傾向にあります。

4. 過去の書類の扱いが不明確

「2024年以前の書類はどうすればいいのか」「紙で保存していた書類を今からデジタル化すべきか」といった疑問が湧いてきます。法律は未来に向けての対応を求めるものなので、過去分を無理に遡及対応する必要はありませんが、管理の一貫性を考えると悩ましいところです。

5. コストと効果のバランス

システム導入費用、運用コスト、従業員教育の時間など、対応には相応の投資が必要です。「本当に効果があるのか」「費用対効果は見合うのか」という経営判断が求められます。

これらの課題は、一つひとつ丁寧に解決していく必要があります。幸い、多くの企業が同じ悩みを抱えているため、成功事例も蓄積されてきています。

実務で使える!電子帳簿保存法対応の具体的なステップ

では、実際にどのように対応を進めればよいのでしょうか。私が企業をサポートする際に推奨している7つのステップをご紹介します。

ステップ1:現状把握と対象書類の洗い出し

まず、自社でどのような書類を扱っているか、リストアップします。そして、それぞれが電子帳簿保存法の対象かどうかを判定します。人事・総務・経理の各部門が連携して、全社的な棚卸しを行うのが理想的です。

実施のコツ:

いきなり完璧を目指さず、まずは「電子取引データ」に絞って洗い出すと進めやすいです。

ステップ2:保存要件の確認

洗い出した書類について、電子帳簿保存法だけでなく、労働基準法や社会保険関係法令での保存義務も確認します。複数の法律が絡むため、専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

ステップ3:社内ルールの策定

「誰が」「いつ」「どのように」電子データを保存するのか、具体的な運用ルールを決めます。例えば、「外部からメールで請求書を受け取った場合は、受領後3営業日以内に指定フォルダに保存し、ファイル名は『日付_取引先名_金額』の形式とする」といった具体的なルールです。

ステップ4:システムの選定または改修

既存システムで対応できるか確認し、必要であれば新しいシステムを導入します。選定のポイントは後ほど詳しく解説しますが、自社の規模や予算に合ったものを選ぶことが重要です。

ステップ5:従業員への周知と教育

新しいルールやシステムについて、全従業員に周知します。説明会の開催、マニュアルの作成、Q&A集の準備などを行い、スムーズな移行を支援します。「なぜ変えるのか」という目的を共有することが、協力を得るカギです。

ステップ6:試行運用とフィードバック収集

いきなり全社展開するのではなく、特定部署や特定業務で試行運用を行い、問題点を洗い出します。現場の声を聞きながら、ルールやシステムを微調整していくことで、本格運用時のトラブルを減らせます。

ステップ7:本格運用と定期的な見直し

本格運用開始後も、定期的に運用状況をチェックし、改善を続けます。法改正への対応や、新しい業務フローへの対応など、継続的なメンテナンスが必要です。

所要期間の目安

  • ・小規模企業(従業員30名以下):3〜6ヶ月
  • ・中規模企業(従業員30〜300名):6〜12ヶ月
  • ・大規模企業(従業員300名以上):12ヶ月以上

ただし、既存システムの状況や対応範囲によって大きく変わります。

システム選びで失敗しないためのチェックポイント

電子帳簿保存法対応のシステムは数多く提供されていますが、自社に合ったものを選ぶのは簡単ではありません。以下のチェックポイントを参考にしてください。

1. 法令要件への対応

必須チェック項目

  • ・タイムスタンプ機能または訂正削除履歴の記録機能があるか
  • ・検索機能(日付、金額、取引先)が備わっているか
  • ・法改正に対応したアップデートが提供されるか

JIIMA(日本文書情報マネジメント協会)の認証を取得している製品は、法令要件を満たしている目安になります。

2. 既存システムとの連携

給与計算システム、勤怠管理システム、会計システムなど、既存システムとスムーズに連携できるかは重要なポイントです。データの二重入力が発生すると、業務効率が下がってしまいます。

3. 使いやすさ

どんなに高機能でも、従業員が使いこなせなければ意味がありません。直感的な操作性、分かりやすいマニュアル、サポート体制の充実度を確認しましょう。無料トライアルがあれば、実際に試してから判断できます。

4. コスト

初期費用だけでなく、月額利用料、保存容量の追加費用、サポート費用など、トータルコストを把握します。クラウド型とオンプレミス型では、コスト構造が大きく異なります。

コスト比較の目安

クラウド型:

初期費用が安く(0〜50万円程度)、月額料金制(1〜10万円/月)。スモールスタートに向いている。

オンプレミス型:

初期費用が高く(100万円〜)、月額費用は低い。大規模企業やセキュリティ要件が厳しい企業向け。

5. セキュリティ

人事労務データには個人情報が含まれるため、セキュリティ対策は極めて重要です。データの暗号化、アクセス権限の設定、バックアップ体制などを確認します。

6. ベンダーの信頼性

システムは長期間使用するものです。ベンダーの実績、財務状況、サポート体制を確認し、安心して任せられる企業かどうか見極めましょう。

システム選定のメリット・デメリット

クラウド型のメリット
  • ・初期費用が抑えられる
  • ・法改正への対応が自動
  • ・場所を選ばずアクセス可能
クラウド型のデメリット
  • ・月額費用が継続的に発生
  • ・インターネット環境が必須
  • ・データの所在地に不安を感じる場合も
オンプレミス型のメリット
  • ・データを自社内で管理できる
  • ・カスタマイズの自由度が高い
  • ・長期的にはコストが抑えられる可能性
オンプレミス型のデメリット
  • ・初期投資が大きい
  • ・法改正対応が自己責任
  • ・システム管理者が必要

よくある質問:電子帳簿保存法対応のQ&A

実務でよく寄せられる質問に回答します。

  • Q

    紙で受け取った請求書も電子保存しなければならないのですか?

    A

    いいえ、紙で受け取った書類は紙のまま保存して構いません。電子帳簿保存法で義務化されているのは「電子取引データ」の電子保存です。ただし、紙書類をスキャンして電子保存することは任意で可能です。

  • Q

    過去の書類も遡って電子化する必要がありますか?

    A

    いいえ、義務ではありません。電子取引データの電子保存は2024年1月以降に行われた取引が対象です。それ以前の書類は従来通りの方法で保存すれば問題ありません。ただし、管理の統一性を考えて遡及対応する企業もあります。

  • Q

    個人事業主や小規模企業でも対応が必要ですか?

    A

    はい、事業規模に関係なく、電子取引を行っていれば対応が必要です。ただし、小規模企業向けの簡易的な方法もあります。例えば、受け取った電子データを日付や取引先で分かるようにフォルダ分けして保存し、税務署の求めに応じて提示できるようにしておけば、検索機能の要件は一部緩和されます。

  • Q

    タイムスタンプは必ず必要ですか?費用が心配です

    A

    タイムスタンプは改ざん防止措置の一つの方法ですが、必須ではありません。訂正削除の記録が残るシステムを使用する、または訂正削除を行った場合の事務処理規程を作成・運用するという方法でも対応可能です。コストを抑えたい場合は、事務処理規程での対応を検討しましょう。

  • Q

    対応できていない場合、どんなペナルティがありますか?

    A

    現時点で直ちに罰則が科されることはありませんが、適切な保存ができていない場合、税務調査で青色申告の承認取消や推計課税のリスクがあります。また、取引先や金融機関からの信用にも影響する可能性があります。早期の対応をお勧めします。

  • Q

    雇用契約書を電子化したいのですが、従業員の同意は必要ですか?

    A

    はい、必要です。労働基準法では、労働条件の明示は原則として書面で行うこととされていますが、労働者が希望した場合に限り、電子メールやSNS等での交付も可能です。従業員一人ひとりから同意を得る必要があります。

  • Q

    システム導入の予算が取れません。何か方法はありますか?

    A

    最初から完璧なシステムを導入する必要はありません。まずは以下のような低コストの方法から始めることができます。

    ・フォルダ管理での保存(日付・取引先・金額で検索できるようファイル名を工夫)
    ・事務処理規程の作成による改ざん防止対応
    ・無料または低価格のクラウドストレージの活用

    段階的に対応を進め、業務が安定してから本格的なシステム導入を検討するのも一つの方法です。

まとめ:電子帳簿保存法対応を成功させるために

電子帳簿保存法対応は、確かに手間とコストがかかる作業です。しかし、適切に対応することで、書類管理の効率化、リモートワークへの対応、災害時のリスク軽減など、多くのメリットを得ることができます。

この記事の要点

  • 1. 電子帳簿保存法は2024年から完全義務化されており、電子取引データは電子保存が必須
  • 2. 人事労務部門では、給与計算データや外部業者との取引データが主な対象
  • 3. 対応には3つの区分があり、特に「電子取引データ保存」への対応が急務
  • 4. 段階的なアプローチで、現状把握→ルール策定→システム導入→運用という流れで進める
  • 5. システム選定では、法令対応・既存システム連携・コスト・セキュリティを総合的に判断
  • 6. 小規模企業でも対応は必須だが、簡易的な方法も認められている

次のアクションステップ

まず、自社で扱っている電子取引データの洗い出しから始めましょう。そして、現状の保存方法が法令要件を満たしているか確認してください。もし不安な点があれば、社会保険労務士や税理士などの専門家に相談することをお勧めします。

電子帳簿保存法対応は、一度体制を整えれば、その後の業務効率は大きく向上します。「面倒な法対応」ではなく、「業務改革のチャンス」と捉えて、前向きに取り組んでいきましょう。

私たち社会保険労務士は、法令の解釈から実務の運用まで、トータルでサポートすることができます。一人で悩まず、ぜひ専門家の力も活用しながら、スムーズな電子帳簿保存法対応を実現してください。

参考情報源

国税庁「電子帳簿保存法の内容が改正されました」

デジタル庁「電子帳簿保存法への対応について」

厚生労働省「労働基準法関係」

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