最終更新日:2025.11.16(公開日:2025.11.16)
監修者:営業責任者 渥美 瞬
監修協力:社会保険労務士 河守 勝彦

クラウド型勤怠管理システムは、企業の働き方改革や労務DXの中心的ツールとして注目を集めています。しかし、その導入には「労働基準法」「個人情報保護法」「電子帳簿保存法」など、複数の法令にまたがるリスクが潜んでいます。
制度を誤って運用すると、未払い残業や個人情報漏洩などの法的トラブルに直結する恐れがあります。本ガイドでは、社会保険労務士の専門的視点から、2025年現在の最新法令に基づき、クラウド型勤怠管理システム導入時に必ず押さえるべき法的ポイントを徹底解説します。
働き方改革関連法により、企業は労働時間の「客観的把握」を義務付けられています(労働安全衛生法第66条の8、労働基準法第108条・109条)。これにより、従業員の自己申告のみで労働時間を管理することは不十分とされ、客観的データ(ICカード、PCログ、クラウド打刻など)による記録が必要となりました。
クラウド型勤怠管理システムは、リアルタイム性と自動化を兼ね備えた手法として、多くの企業に導入が進んでいます。具体的な利点として以下が挙げられます。
紙やExcel管理からの脱却
割増賃金の計算誤りを防止
テレワーク、フレックス、シフト制などに柔軟対応
システム側で法令改正に対応
一方で、「導入しても法的に十分か」「記録保存は大丈夫か」といった懸念も少なくありません。次章では、関係する主要法律を整理します。
労働時間・休憩・休日などの労務管理の根幹を規定。特に第32条(労働時間)、第36条(時間外労働の協定届)、第109条(帳簿保存義務)が勤怠システムの設定に直接影響します。
クラウドシステムに蓄積される勤怠データ(氏名、社員番号、位置情報など)は個人情報です。
2022年改正法および2025年時点の最新ガイドラインでは、以下が義務化・推奨されています。
出勤簿は「労基法上の法定三帳簿」に該当。電子データで保存する場合は、次の条件を満たす必要があります。
給与計算機能と連動している場合、マイナンバーを扱う可能性があります。
暗号化・アクセス制限などの特定個人情報保護措置を遵守することが必須です。
勤怠打刻は「誰が・どこで・いつ」働いたかを正確に示す証拠です。不正打刻(代理打刻・虚偽打刻)を防止するため、以下の仕組みを整える必要があります。
システム設定ミスにより誤支給が発生する事例は多く、導入時には社労士による初期設定監査を推奨します。
保存義務期間は5年間。解約後も出勤簿データへアクセスできる契約設計が必要です。
ベンダーとの契約書には「解約後のデータ提供」「バックアップ期間」を明記しましょう。
勤怠情報は「従業員の生活行動履歴」とも言えるセンシティブ情報です。以下の安全管理措置が求められます。
位置情報・生体認証を使用する場合は、「業務上の必要性」「利用範囲」「保存期間」を明文化しておくことが望まれます。
クラウド勤怠システム導入時には、就業規則の改定や従業員周知が不可欠です。
「従業員は会社が指定する勤怠管理システムにより、出退勤時に打刻を行わなければならない。打刻漏れが生じた場合は所属長の承認を得て修正するものとする。」
このような条文を就業規則に盛り込み、従業員説明会を実施することで、労使間の合意形成がスムーズになります。
就業規則変更時は、労働者代表の意見聴取・労基署への届出・社内掲示の三段階を踏むことが法定手続きです。
| チェック項目 | 内容 |
|---|---|
| 法令対応 | 労基法・個人情報保護法・電子帳簿保存法への対応確認 |
| 機能性 | 1分単位記録、36協定上限アラート、変形労働制対応 |
| セキュリティ | ISO27001/プライバシーマーク取得、国内データセンター利用 |
| サポート体制 | 法改正対応アップデートの有無、サポート窓口体制 |
| データ保全 | 解約後のデータ提供方法、バックアップ頻度 |
原因:修正ルール未整備、管理者チェック不足
対応策:当日修正アラート設定+管理者承認ワークフロー導入
原因:説明不足、利用目的の明示なし
対応策:事前同意取得+業務上必要な範囲のみ利用を明示
原因:バックアップ体制未整備、BCP計画なし
対応策:障害時代替手段(手動記録)を事前策定、定期バックアップ契約
勤怠システム導入は「ツールの選定」ではなく、「労務管理体制の再設計」です。専門家である社会保険労務士は以下の点で支援可能です。
クラウド型勤怠管理システムは、企業にとって「法令遵守」「DX推進」「働き方改革」を同時に実現できる重要な仕組みです。
ただし、導入前に法的観点を十分に確認し、運用ルールを整備することが成功の鍵です。
法的リスクを最小限に抑え、従業員と企業が安心して利用できる勤怠管理システムを構築しましょう。