最終更新日:2026.02.19(公開日:2026.2.19)
監修者:営業責任者 渥美 瞬
監修協力:社会保険労務士 河守 勝彦

本記事のポイント
「人事労務の仕事って、毎月同じことの繰り返しで時間がかかる…」そんな悩みを抱える経営者の方は少なくありません。実は今、生成AIをはじめとする労務AIが、この課題を根本から解決しつつあります。
給与計算のチェック、勤怠データの分析、就業規則の照会対応など、これまで人の手で行っていた業務の多くをAIが代行できる時代になりました。しかし、個人情報の取り扱いや法的責任など、導入前に押さえるべきポイントも存在します。
本記事では、労務AI活用の実践的な方法から、失敗しないための注意点まで、経営者が知っておくべき情報を網羅的に解説します。
労務AIとは何か(人事労務DXの中核)、人事労務業務にAI(人工知能)技術を活用したシステムやツールの総称です。具体的には、機械学習、自然言語処理、生成AI(ChatGPTのような大規模言語モデル)などの技術を組み合わせて、人事労務のさまざまな業務を自動化・効率化します。
従来の人事労務システムとの最大の違いは、「学習能力」と「柔軟性」にあります。例えば、従来のシステムは決められたルールに従って処理するだけでしたが、AIは過去のデータから傾向を学習し、予測や提案を行うことができます。これは、まるで経験豊富なベテラン社員が過去の事例から最適な判断を下すのに似ています。
日本国内では、2024年以降に生成AIの普及が急速に進み、人事労務分野でも活用が広がっています。帝国データバンクの調査(2024年)によれば、従業員100名以上の企業の約35%が何らかの形でAIを人事労務業務に導入しているか、導入を検討している段階です。
特に注目すべきは、大企業だけでなく中小企業でも導入が進んでいる点です。クラウド型の労務管理システムにAI機能が標準搭載されるケースが増え、初期投資を抑えながら最新技術を活用できる環境が整ってきました。
労務AIは大きく3つのタイプに分類できます。
給与計算、勤怠管理、社会保険手続きなど、定型的な業務を自動化するタイプ。ルールベースの処理が中心ですが、機械学習により精度が向上しています。
離職リスク・注意点(法務・実務)予測、採用マッチング、労働時間の異常検知など、データ分析に基づいて将来を予測したり、パターンを発見したりするタイプ。
従業員からの労務相談への自動回答、規程文書の作成支援、契約書のチェックなど、人間との対話や文書作成を支援するタイプ。ChatGPTなどの生成AIがこの領域で急速に普及しています。
それぞれの特性を理解し、自社の課題に合ったタイプを選択することが成功の鍵となります。
給与計算は労務業務の中でも最も時間がかかり、かつミスが許されない業務です。労務AIは以下のような形で給与計算を支援します。
あるIT企業では、AIによる給与計算チェック機能を導入した結果、従来は3日かかっていた給与計算業務が1日で完了するようになり、人的ミスも月平均5件から0.5件に減少したという報告があります。
働き方改革関連法により、労働時間の適正管理が厳格化されています。労務AIは以下の形で勤怠管理をサポートします。
これらの機能により、法令違反のリスク・注意点(法務・実務)を未然に防ぐことができます。特に、複数の事業所を持つ企業では、全社的な労働時間管理が容易になります。
入社・退社時の社会保険手続きは、書類が多く煩雑です。労務AIは以下の業務を効率化します。
特に生成AIを活用すると、「扶養に入れるかどうか微妙なケース」など、判断が難しい事例について、過去の類似ケースを参照しながら適切な処理方法を提案してくれます。
「有給休暇の残日数は?」「育児休業の手続きは?」といった従業員からの問い合わせ対応は、人事担当者にとって大きな負担です。
ある製造業では、生成AI型チャットボット導入により、人事担当者への問い合わせが月150件から50件に減少し、担当者は本来業務に集中できるようになりました。
労務AIは、採用から人材配置まで、広範な人事業務をサポートします。
特に採用業務では、AIが応募者の経歴やスキルを分析し、求める人物像とのマッチング度を数値化することで、より客観的な選考が可能になります。
労務AIの最大のメリット(実務効果)は、何と言っても業務時間の削減です。
これらの削減効果により、人事労務担当者は定型業務から解放され、より戦略的な業務(人材育成、組織開発、労務リスク・注意点(法務・実務)対策など)に時間を使えるようになります。
人間が行う作業には、どうしてもミスがつきものです。特に給与計算のような繰り返し作業では、集中力の低下によるミスが発生しがちです。
労務AIは、一度正しく設定すれば同じミスを繰り返すことはありません。また、異常値検知機能により、仮にデータ入力ミスがあっても、システムが警告を出してくれます。
ある企業では、給与計算ミスによる従業員からのクレームが年間20件以上あったのが、AI導入後はほぼゼロになったそうです。
労働関連法規は頻繁に改正され、対応が追いつかないことがあります。労務AIは法改正情報を自動更新し、常に最新の法令に準拠した処理を行います。
特に、2024年4月に施行された労働条件明示ルール改正のような法改正時にも、システムが自動的に対応してくれるため、対応漏れのリスク・注意点(法務・実務)が大幅に減ります。
労務AIの導入は、実は従業員満足度の向上にもつながります。
特に若手社員は、チャットボットでの問い合わせを好む傾向があり、「上司や人事に聞きにくいこと」も気軽に確認できるようになります。
労務AIは膨大なデータを分析し、経営判断に役立つインサイトを提供します。
勘や経験だけでなく、データに基づいた客観的な判断ができるようになることは、経営の質を高める上で大きな価値があります。
労務データには、氏名、生年月日、給与額、家族構成など、極めてセンシティブな個人情報が含まれています。労務AI導入時には、個人情報保護法に基づいた適切な管理が不可欠です。
特に注意が必要なのは、外部の生成AIサービス(ChatGPTなど)に従業員情報を入力する場合です。無料版のサービスでは、入力データがAIの学習に使用される可能性があるため、機密情報の入力は避けるべきです。企業向けの有料版やプライベート環境を利用しましょう。
AIが提示した判断や計算結果が誤っていた場合、最終的な責任は企業側にあります。「AIがそう言ったから」という言い訳は通用しません。
例えば、AIが「この従業員は離職リスク・注意点(法務・実務)が高い」と予測したとしても、それだけを理由に処遇を変えることは不適切です。あくまで参考情報として扱い、人間が総合的に判断する必要があります。
便利な労務AIに頼りすぎると、担当者の専門知識が失われるリスク・注意点(法務・実務)があります。これは、カーナビに頼りすぎて道を覚えなくなるのと似ています。
特に、法改正時や特殊なケースが発生した際に、AIだけでは対応できないことがあります。人間の専門知識との組み合わせが重要です。
AI導入により「人員削減されるのでは?」という不安を従業員が抱くことがあります。
「AIは敵ではなく、みなさんの仕事を楽にするパートナーです」というメッセージを丁寧に伝えることが大切です。
高価な労務AIシステムを導入したものの、使いこなせず投資回収できないケースがあります。
特に中小企業では、高機能すぎるシステムよりも、シンプルで使いやすいシステムの方が効果が出やすい傾向があります。
労務AI導入の第一歩は、自社の現状を正確に把握することです。
この分析に基づき、「どの業務から AI化すると最も効果が大きいか」を判断します。一般的には、以下の優先順位が推奨されます。
いきなり全社導入するのではなく、限定的な範囲で試験運用することをお勧めします。
例えば、まずは勤怠管理のAI異常検知機能だけを3ヶ月間試験導入し、効果を確認してから給与計算支援機能を追加する、といったアプローチです。
試験導入の結果を数値で評価することが重要です。
効果が芳しくない場合は、設定の見直しや追加トレーニングを行います。「期待した効果が出ない」と早々に諦めるのではなく、PDCAサイクルを回すことが成功の鍵です。
試験導入で成果が確認できたら、全社展開に移行します。
中小企業(従業員50〜100名)の場合、労務AI導入の一般的な投資回収期間は以下のとおりです。
労務AIは「導入したら終わり」ではありません。継続的に改善を重ね、新機能を取り入れていくことで、長期的な効果が得られます。
ただし、これはあくまで目安であり、企業規模や業種、導入する機能範囲によって大きく変動します。
複数の工場を持ち、シフト勤務が複雑。残業時間の集計に毎月10日間かかり、36協定違反のリスク・注意点(法務・実務)もあった。
勤怠管理AIシステム(月額8万円)
段階的導入を実施。まず本社工場のみで3ヶ月試験運用し、課題を洗い出してから全工場に展開した点。
リモートワーク中心の働き方で、従業員からの労務関連問い合わせが増加。人事担当者2名では対応しきれず。
生成AI型チャットボット(月額3万円)+既存勤怠システムとのAPI連携
よくある質問をデータベース化し、AIに学習させた。また、AIが答えられない質問は人間にエスカレーションする仕組みを整備。
パート・アルバイトが多く、シフト制で計算が複雑。毎月の給与計算ミスが平均5件発生。
給与計算AIチェックシステム(月額10万円)
AIに過去3年分の給与データを学習させ、異常パターンを高精度で検知できるようにした点。
労務AIを導入すると人事担当者は不要になるのか?
いいえ、違います。
労務AIは人間の仕事を「置き換える」のではなく、「支援する」ツールです。定型的な作業はAIに任せ、人間は以下のような、より高度で創造的な業務に集中できるようになります。
人間が担うべき業務:
・従業員との信頼関係構築
・複雑な労務問題への対応(個別事情を考慮した判断)
・組織開発や人材育成戦略の立案
・経営層への提言
むしろ、AIにより効率化された分、人事担当者の役割はより戦略的・重要になると言えます。
中小企業には労務AIは必要ないのでは?
中小企業こそ労務AI導入のメリット(実務効果)が大きい場合があります。
中小企業は人事労務の専任担当者がいないケースも多く、経営者や総務担当者が兼務していることが一般的です。そのような状況では、労務AIが「仮想的な労務担当者」として機能し、専門性を補完してくれます。
また、クラウド型の労務AIサービスは月額数万円から利用でき、従業員1人あたりのコストは大企業よりも中小企業の方が高くなりません。従業員50名規模でも十分に投資回収が可能です。
AIの判断は法的に問題ないのか?
AI自体に法的判断能力はなく、最終判断は人間が行う必要があります。
AIはあくまで「判断材料を提供するツール」であり、法的責任を負うのは企業(および経営者)です。特に以下のような重要判断は、必ず人間が行うべきです。
・解雇や懲戒処分の決定
・労働条件の不利益変更
・個別労使紛争への対応
AIの提案を参考にしつつも、最終的には社会保険労務士などの専門家の助言を得て判断することをお勧めします。
導入後に使いこなせるか不安です
ベンダーのサポート体制を重視して選定しましょう。
労務AI導入で失敗する最大の理由は、「システムが複雑すぎて使いこなせない」ことです。以下の点を確認してシステムを選びましょう。
選定時のチェックポイント:
・無料トライアル期間があるか
・導入時のトレーニングサポートがあるか
・日本語でのカスタマーサポートがあるか(電話・メール)
・マニュアルやFAQが充実しているか
・既存の勤怠・給与システムと連携できるか
また、自社の ITリテラシーに合ったシステムを選ぶことも重要です。高機能すぎるシステムより、シンプルで直感的に使えるシステムの方が定着しやすいケースもあります。
個人情報がAIに学習されて漏洩しないか?
適切なサービスを選べば、情報漏洩のリスク・注意点(法務・実務)は極めて低いです。
企業向けの労務AIサービスは、以下のようなセキュリティ対策を講じています。
主なセキュリティ対策:
・データの暗号化(通信時・保存時)
・アクセスログの記録
・プライバシーマーク、ISMS認証の取得
・データセンターの物理的セキュリティ
・学習データとしての利用禁止(契約で明記)
ただし、無料の生成AIサービス(無料版ChatGPTなど)に従業員情報を入力することは絶対に避けてください。必ず企業向けの有料プラン、またはプライベート環境を利用しましょう。
労務AIは、人事労務業務の効率化と質の向上を実現する強力なツールです。
自社の労務業務を棚卸しし、「時間がかかっている業務」「ミスが多い業務」「法令違反リスク・注意点(法務・実務)のある業務」をリストアップする。これにより、AI導入の優先順位が明確になります。
労務AIサービスの無料トライアルを活用し、実際の使用感を確認する。少なくとも2〜3社のサービスを比較検討しましょう。主要なサービスとしては、「SmartHR」「ジンジャー」「freee人事労務」などがあります。
従業員に対して、労務AI導入の目的と効果を説明する機会を設ける。「人員削減が目的ではなく、業務効率化により、より働きやすい環境を作ることが目的」というメッセージを明確に伝えましょう。
以下のような場合は、社会保険労務士やITコンサルタントなどの専門家への相談をお勧めします。
労務AIの導入は、単なるシステム導入ではなく、働き方改革の一環と捉えるべきです。適切に導入すれば、従業員にとっても企業にとっても大きなメリット(実務効果)をもたらします。
2026年現在、労務AI技術は日々進化しており、導入コストも下がり続けています。「まだ早い」と様子見をするよりも、小規模なトライアルから始めて、自社に合った活用方法を探っていくことをお勧めします。
厚生労働省「人事労務分野におけるAI活用に関するガイドライン」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/index.html
個人情報保護委員会「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」
https://www.ppc.go.jp/