最終更新日2025.4.14(公開日:2025.4.14)
監修者:営業責任者 渥美
多くの従業員が労災申請を躊躇する大きな理由の一つに、「会社に嫌がられるのではないか」という不安があります。実際、労災申請を会社側が快く思わないケースは少なくありません。しかし、労災保険は働く人を守るための重要な制度です。
この記事では、なぜ会社が労災申請を嫌がるのか、その理由を解説するとともに、労災発生時に知っておくべきことについて解説していきます。
労災申請を会社が嫌がる背景には、いくつかの理由があります。これらを理解することで、会社の反応に対して冷静に対応できるようになるでしょう。
労災保険は、会社が全額負担する保険です。そして、労災の発生件数が多い会社ほど、翌年以降の保険料率が上昇する仕組みになっています。これは「メリット制」と呼ばれるシステムで、労災が多発する企業には経済的な負担を増やすことで、職場の安全対策を促進する目的があります。
会社にとっては、労災申請が増えれば保険料負担が増える可能性があるため、特に経営が厳しい中小企業などでは労災申請を避けたい動機が生じやすくなります。
労災件数が多い企業は、「従業員の安全に配慮していない会社」というイメージにつながる可能性があります。特に、重大な労災事故が発生した場合、企業名が公表されることもあり、企業ブランドに傷がつくことを恐れる心理が働きます。
また、取引先や顧客からの信頼を失うリスクもあるため、表面化させたくないという意識が経営層に存在することがあります。
労働災害が発生した場合、労働基準監督署による立入調査が行われる可能性があります。特に複数の労災が発生している企業では、労働環境に問題がないか詳細な調査が入ることもあるでしょう。
こうした調査の結果、労働安全衛生法違反などが見つかれば、是正勧告や場合によっては罰則を受けることになります。会社としては、こうした行政指導を避けたいという思いから労災申請に消極的になることがあります。
労働災害が発生すると、上司や管理職の管理責任が問われることがあります。特に安全配慮義務を怠ったと判断されれば、会社だけでなく個人としても責任を追及される可能性があります。
そのため、直属の上司などが「自分の評価に影響する」という懸念から、労災申請を躊躇させるような言動をとることがあります。
労災申請を考えている従業員に対して、会社側から以下のような言動はしてはいけません。これらは労災申請を妨げる意図が見えるからです。
■「健康保険で対応してほしい」 労災保険ではなく健康保険での治療を勧められることがあります。しかし、業務上の事故や病気は本来労災保険で対応すべきものです。健康保険は私傷病のためのものであり、業務上の傷病に使用するのは制度の趣旨に反します。
健康保険を使うと自己負担が発生し、休業補償も労災より低くなる場合が多いため、従業員にとって不利益となります。
■「会社の診療所や指定医で診てもらって」と指示 会社専属の医師や特定の病院でのみ診療を受けるよう指示されることがあります。しかし、労災保険では医療機関を自由に選ぶ権利があります。労災指定医療機関であれば、どこで診療を受けても構いません。
会社が特定の医師のみを勧める背景には、労災認定されにくい診断を期待しているケースがあります。
■「自己責任だから」と責任転嫁 「注意不足だった」「マニュアル通りにやっていなかった」などと、すべて従業員の責任にすることがあります。しかし、たとえ従業員にも一部過失があったとしても、それだけで労災保険の適用が否定されるわけではありません。
労災認定の基準は「業務起因性」と「業務遂行性」であり、従業員の不注意があっても、業務中の事故であれば基本的に労災と認められます。
労災保険は、労働者の業務上の怪我や病気を補償するための制度であり、申請することは従業員の正当な権利です。以下の点を理解しておきましょう。
労災保険制度は労働者災害補償保険法に基づいて設けられた制度です。すべての労働者は、業務に起因する傷病に対して補償を受ける権利があります。これは雇用形態(正社員、パート、アルバイト、契約社員など)に関わらず認められています。
会社が申請を妨げることは、法律で保障された権利を侵害する行為となる可能性があります。
労災申請をしたことを理由に、解雇や降格、配置転換、嫌がらせなどの不利益な取扱いをすることは法律で禁止されています。万が一そのような対応があった場合は、それ自体が労働基準法違反となります。
労災申請を会社に伝える際に、従業員側にとって大事なことを説明します。
感情的にならず、いつ、どこで、どのような状況で怪我や病気になったのかを客観的に伝えましょう。可能であれば、同僚などの証言を得ておくことも有効です。
「〇月〇日〇時頃、〇〇作業中に、〇〇のような状態になり、右腕を負傷しました」というように具体的に説明することが大切です。
労災申請には医師の診断書が必要です。早めに医療機関を受診し、業務との関連性について医師に伝えておくことが重要です。診断書があれば、会社側も労災申請の正当性を理解しやすくなります。
受診の際は「仕事中に発生した」ことを必ず医師に伝え、カルテに記録してもらいましょう。
労災保険には健康保険と比較して従業員にとって多くのメリットがありますが、いくつかの注意点もあります。正確な情報を理解したうえで判断しましょう。
労災保険を利用する主なメリットは以下の通りです:
1. 医療費の自己負担なし 労災指定医療機関であれば、治療費が全額カバーされます
2. 休業補償の充実休業4日目から給料の約80%が支給されます
3. 通院費の支給通院にかかる交通費も支給対象となります
4. 後遺障害が残った場合の補償障害等級に応じた障害補償給付があります
5. リハビリテーションなどの支援社会復帰に向けたサポートも充実しています
健康保険では3割の自己負担があり、傷病手当金も給料の約66%と低くなるため、労災申請をすることで経済的負担を大きく軽減できます。
労災申請にあたっては、以下の点に注意が必要です:
1. 申請期限がある治療開始から2年を経過すると時効となる場合があります
2. 因果関係の立証業務と傷病の因果関係を示す証拠が必要です
3. 会社との関係円滑に進めるためには会社の協力が望ましいです
4. 認定基準の理解特に過労やメンタルヘルス不調の場合、認定基準を理解しておくことが重要です
特に精神疾患や腰痛などの場合は認定のハードルが高いため、医師の診断書や業務内容の記録などを丁寧に準備することが大切です。
労災申請に関してよくある疑問について、回答をまとめました。
労災申請をした従業員を会社から解雇することは可能でしょうか?
労災申請をしたことを理由に解雇することは法律で禁止されています。万が一、労災申請後に解雇した場合、その解雇は「不当解雇」として争うことができます。会社との関係が悪化することを避けるため、申請前にしっかりとコミュニケーションを取ることが重要です。
いつまでに労災申請をすべきですか?
労災保険の申請には法律上の期限はありませんが、治療開始から2年経過すると時効により給付を受けられなくなるケースがあります。また、時間が経つほど業務との因果関係の証明が難しくなりますので、怪我や病気に気づいたらできるだけ早く(理想的には1ヶ月以内に)申請手続きを始めることをお勧めします。
労災か労災でないかの判断はどうすればいいですか?
最終的に労災かどうかを判断するのは労働基準監督署であり、会社ではありません。
パートやアルバイトでも労災申請できますか?
はい、労災保険は雇用形態に関わらず適用されます。正社員だけでなく、パート、アルバイト、契約社員、派遣社員など、すべての労働者が対象です。また、労働保険料を会社が納めていなかった場合でも、労働者には申請する権利があります。
労災申請は、保険料率の上昇や企業イメージの低下、行政指導のリスクなど様々な背景があります。しかし、それらは会社側の都合であり、働く人が安全に働き、万が一の際に適切な補償を受ける権利を妨げる理由にはなりません。
労災申請は労働者の正当な権利です。申請をためらう必要はありませんが、スムーズに進めるためには以下の点を意識することが大切です:
1. 早めの医療機関受診業務との関連性を医師に伝え、適切な診断書を得ましょう
2. 客観的な事実の記録いつ、どこで、どのような状況で怪我や病気になったかを記録しておきましょう
3. 必要書類の準備労災申請に必要な書類を理解し、準備を進めましょう
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