kounenreikoyoukeizokukyuufusikyuuritsu-hikisage 【2025年4月施行】高年齢者雇用継続給付の支給率引き下げと企業が取るべき対応策
【2025年4月施行】高年齢者雇用継続給付の支給率引き下げと企業が取るべき対応策

最終更新日2025.9.4(公開日:2025.9.4)
監修者:営業責任者 渥美 瞬
監修協力:社会保険労務士 河守 勝彦

シニア世代の男性の出勤風景

はじめに
日本は急速な高齢化が進み、総人口の約3割が65歳以上を占める「超高齢社会」に突入しています。人手不足が深刻化する中、企業はシニア人材の雇用継続や活用を避けて通ることができません。

そのような状況で大きな影響を及ぼすのが、2025年4月1日から施行される高年齢者雇用継続給付(以下「継続給付」)の支給率引き下げです。従来、60歳以降に大幅に賃金が下がった場合、雇用保険から一定割合が補填されていましたが、今後はその割合が縮小されます。

この変更は単なる給付額減少にとどまらず、企業の賃金制度設計や人事戦略に大きな見直しを迫る内容です。本稿では、現行法に基づく制度の詳細、改正の背景、企業への影響、助成金の活用、さらに実務上の留意点と今後の戦略を詳しく解説します。

高年齢者雇用継続給付の支給率が引き下げられることになった背景

(1) 高齢者雇用の制度整備

企業には65歳までの雇用確保措置が義務付けられ、2021年からは 70歳までの就業機会確保 が努力義務化されました
2025年3月で「対象者を限定できる経過措置」も終了し、希望者全員を雇用継続する体制が徐々に整えられています。

(2) 賃金制度の見直し

「同一労働同一賃金」の考え方が広がり、年齢を理由とした極端な賃金引き下げが難しくなっています。
給付で賃金差を補う必要性が以前より小さくなったということもあります。

(3) 働き手・企業双方の意識変化

人手不足の中で企業も高齢者の労働力を積極的に活用するようになり、働き続けたいと考える高齢者も増えています。
給付金がなくても就業機会が確保されやすい環境になってきたと言えます。

(4) 制度の役割の変化

高年齢雇用継続給付はもともと「定年後の急激な賃金減少へのつなぎ支援」でした。
しかし、法制度や雇用環境の改善でその役割を果たしつつあり、今後は段階的な縮小・廃止に向かう流れと考えられます。

高年齢者雇用継続給付の仕組み

継続給付は雇用保険法第61条の4に根拠を持つ制度で、1995年に導入されました。

  • ・制度の目的
  • ・定年退職後も働きたい労働者の生活支援
  • ・高齢者の就労意欲確保
  • ・経験豊富な人材を企業が活用できる環境整備
  • ・支給対象の条件
  • ・60歳以上65歳未満の雇用保険一般被保険者
  • ・被保険者期間が通算5年以上
  • ・60歳到達時に比べて賃金が75%未満に低下
  • ・基本手当や再就職手当を受給していない

この制度により、定年後に継続雇用された労働者の急激な収入減少が緩和されてきました。

2025年4月からの改正内容

改正の要点

2025年3月31日までに60歳に到達 → 従来の支給率(最大15%)
2025年4月1日以降に60歳に到達 → 支給率が**最大10%**に縮小

支給率の比較

従来制度

  • 賃金低下率61%以下 → 15%支給
  • 賃金低下率61%超~75%未満 → 逓減方式
  • 75%以上 → 支給なし

改正後

  • 賃金低下率64%以下 → 10%支給
  • 賃金低下率64%超~75%未満 → 逓減(ていげん)方式
  • 75%以上 → 支給なし

金額の例

60歳時の月給30万円 → 継続雇用で18万円(60%)となった場合:

  • 改正前:18万円 × 15% = 27,000円
  • 改正後:18万円 × 10% = 18,000円
  • ➡ 年間で約10.8万円の減収

この減少は個々の労働者の生活に直結し、企業の人事戦略にも大きな影響を及ぼします。

制度改正の背景

(1) 高年齢者雇用安定法の改正

2013年改正により、企業には65歳までの雇用確保措置が義務づけられました。経過措置により対象者を限定できた制度は2025年3月末で終了し、すべての企業が完全適用となります。

(2) 同一労働同一賃金の導入

2019年施行の働き方改革関連法で導入された同一労働同一賃金の原則は、非正規雇用や高齢者雇用における賃金差を正当化しにくくしています。単に「高齢だから賃金を低くする」という処遇は、法的に正当化しにくくなりました。

(3) 制度廃止への道筋

厚生労働省は2030年4月に継続給付を廃止する方針を示しています。今回の改正は「縮小」の第一歩であり、企業は今から「給付金に頼らない人事制度」への転換を求められます。

企業への影響

労働者側の影響

  • ・実質的な手取り収入の減少(数千円~1万円程度/月)
  • ・就労意欲の低下、早期退職志向の増加
  • ・他社への転職や副業を通じた収入補填の動き

企業側の影響

  • ・シニア人材の離職リスク
  • ・技能やノウハウ継承の断絶
  • ・人材確保コストの増大
  • ・賃金制度見直しの圧力

特に製造業、警備業、清掃業、小売業といった「シニア人材依存度」の高い業界では、現場力に直結する問題となります。

緩和策:高年齢労働者処遇改善促進助成金

制度の概要

給付金の縮小に伴い、企業が賃金を改善した場合に支給される助成金です。

要件

  • ・賃金規程を改定し、60歳到達時の賃金の75%以上を確保
  • ・改定後の継続給付総額が減少していること

助成額

  • 中小企業 → 負担増の2/3
  • 大企業 → 1/2
  • 支給期間 → 最大2年間

  • 60歳到達時:月額30万円
  • 改正後:18万円 → 改定で22.5万円に引き上げ
  • 給付金:0円
  • 企業負担増:4.5万円/月
  • 助成金:約1.2万円/月
  • ➡ 実質負担:3.3万円/月

実務上の留意点

(1) 不利益変更のリスク

賃金制度の変更は「労働条件の不利益変更」にあたり得ます。労働契約法第9条・第10条に基づき、合理性と労使合意が求められます。

(2) 判例に見る高齢者雇用の課題

長澤運輸事件(最高裁平成30年6月1日判決)

定年後再雇用者の賃金が低く設定されていた件で、「職務内容や責任が同一であれば、格差は不合理」と判断。
→ 高年齢者を理由とする一律の賃金引下げは違法の可能性。

ハマキョウレックス事件(最高裁平成30年6月1日判決)

契約社員と正社員の待遇差が問題となった事件。最高裁は「職務の内容が同じなら差別は不合理」と判示。
→ 高齢者雇用においても処遇差別は厳しく判断され得る。

(3) 実務上の課題

  • ・就業規則や賃金規程の改定が必要
    • ・再雇用者・継続雇用者の給与水準をどう設定するか、賃金規程の見直しが必要です。
    • ・特に「定年前後で賃金が急減する設計」だと、給付減少との相乗効果で不満が強まりやすいため、調整が重要です。
    • ・就業規則には再雇用・継続雇用の条件や処遇方針を明確に記載し、労使間で合意できる形にする必要があります。
  • ・従業員への説明不足によるトラブル回避
  • ・給付が縮小されることを知らずに再雇用されると、「想定より手取りが少ない」トラブルが発生する可能性があります。
  • ・社内説明会・個別面談・資料配布などを通じて、制度変更点と自社での対応方針をしっかり共有することが求められます。
  • ・特に「60歳以降のライフプラン設計」に影響するため、キャリア相談や説明責任を果たすことが信頼関係の維持に直結します。
  • ・企業独自の奨励金や福利厚生制度の検討
    • ・国の給付縮小を補う形で、企業独自の奨励金や特別手当を設けることを検討する動きも出てきます。
    •  例:勤務日数や職務内容に応じた高齢者向け「就業継続奨励金」
    •  例:健康維持・通勤補助・福利厚生強化による非金銭的支援

こうした制度は人材確保・定着に効果的であり、人手不足時代のシニア活用戦略として重要です。

企業が取るべき対応策

短期的対応(~2025年3月)

  • ・対象従業員と影響額の把握
  • ・労使協議・従業員説明会の実施
  • ・助成金申請準備
  • ・中長期的対応(2025年4月以降)
  • ・年齢に依存しない賃金制度への移行
  • ・成果・役割基準の評価制度
  • ・技能継承プログラムの整備
  • ・健康経営や柔軟な働き方の提供

まとめ:制度改正を成長の機会に

2025年4月からの継続給付の支給率引き下げは、企業にとって大きな転換点です。

  • ・新規60歳到達者は支給率10%
  • ・既存受給者は従来の15%維持
  • ・2030年には制度廃止予定

この変化を単なる負担と考えるのではなく、シニア人材の活躍を促進し、公正で持続可能な人事制度を整える契機と捉えることが重要です。

適切な対応をとることで、優秀な人材の確保、技能継承、企業ブランド向上につながります。企業がいま取るべきは、制度に依存しない「自律的な高齢者雇用戦略」の構築です。

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