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始業前に仕事する人の労働時間はどう扱われる?社労士が解説する適正な処遇と対策

最終更新日2025.7.10(公開日:2025.7.10)
監修者:営業責任者 渥美

早朝のオフィスで一人仕事をする様子

始業前に仕事をする従業員への対応に頭を悩ませている経営者や人事担当者の方も多いのではないでしょうか。また、実際に始業前に仕事をしている労働者の方々も、自分の働き方が適正に評価されているか不安に感じることがあるでしょう。

この記事では、始業前に仕事する人の労働時間の取り扱いについて、労働基準法に基づく正しい処遇方法や、企業が注意すべきポイントを社会保険労務士の視点から詳しく解説します。労務管理をきちんと行うための具体的な対策や、よくある疑問への回答も含めて、わかりやすくお伝えします。

始業前の労働時間の基本的な考え方

始業前に仕事する人の労働時間については、労働基準法第32条の労働時間規制が適用されます。重要なのは、単に「始業時刻前だから労働時間ではない」という考え方ではなく、実際の労働実態に基づいて判断することです。

労働基準法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令に従って業務を行っている時間を指します。
これは昭和62年の最高裁判決(三菱重工長崎造船所事件)で確立された考え方で、始業時刻前であっても、使用者の明示的または黙示的な指示により業務を行っている場合は労働時間として扱われます。

つまり、始業前に仕事をしている従業員がいる場合、その時間が労働時間に該当するかどうかは、形式的な就業時間ではなく、実質的な労働実態によって判断されるのです。

どのような場合が労働時間に該当するか

労働時間に該当するケース

始業前に仕事する人の時間が労働時間として認められるのは、以下のような場合です:

直接的な指示がある場合

  • ・上司から始業前の業務実施を明確に指示されている
  • ・始業前の朝礼や打ち合わせへの参加が義務付けられている
  • ・開店準備や機械の点検などが業務として位置づけられている

黙示的な指示がある場合

  • ・始業前の作業を行わなければ通常業務に支障をきたす可能性がある状況
  • ・始業前の作業を前提とした業務スケジュールが組まれている
  • ・始業前に働かない従業員に対して不利益な取り扱いがなされている

労働時間に該当しないケース

一方で、以下のような場合は労働時間には該当しません:

  • ・完全に労働者の自発的な判断による作業
  • ・会社が明確に禁止しており、実際に管理されている場合
  • ・個人的な学習や準備行為で業務性が認められない場合

ただし、「自発的」という判断は慎重に行う必要があり、実際には会社側の配慮や明確な管理体制が求められます。

始業前に仕事する人への適正な処遇とは

労働時間として認定された場合の処遇

始業前に仕事する人の時間が労働時間として認定された場合、企業は以下の対応が必要です:

■1.賃金の支払い労働基準法第24条に基づき、労働時間として認定された時間に対して賃金を支払う義務があります。時間外労働となる場合は、法定の割増賃金(25%以上)の支払いも必要です。

■2.労働時間の管理労働安全衛生法第66条の8の3により、労働時間の状況を客観的な方法で把握することが義務付けられています。始業前の労働についても記録管理が必要です。

■3.36協定の対象時間外労働となる場合は、労働基準法第36条に基づく36協定の締結と届出が必要です。

健康管理への配慮

始業前に仕事する人に対しては、長時間労働による健康障害を防止するため、以下の配慮が重要です:

  • ・総労働時間の適切な管理
  • ・必要に応じた医師による面接指導の実施
  • ・休憩時間の確保
  • ・有給休暇の取得促進

企業が取るべき具体的な対策

予防的な対策

始業前に仕事する人への対応として、企業は以下の予防的な対策を講じることが重要です:

■1.就業規則の整備始業前の労働に関する明確な規定を就業規則に定め、従業員に周知徹底します。禁止する場合はその旨を明記し、必要な場合の手続きも定めておきます。

■2.労働時間管理システムの導入ICカードやタイムレコーダーなど、客観的な労働時間把握システムを導入し、始業前の入退館記録も含めて管理します。

■3.管理職への教育管理職に対して、始業前労働に関する法的な考え方や管理方法について教育を実施します。

発生時の対応策

既に始業前に仕事する人がいる場合の対応策

■1.実態調査の実施現在の始業前労働の実態を正確に把握するため、従業員へのヒアリングや業務分析を行います。

■2.業務効率化の検討始業前の作業が必要となっている原因を分析し、業務プロセスの見直しや人員配置の最適化を検討します。

■3.適正な評価制度の構築始業前の労働が常態化している場合は、その時間も含めた適正な評価制度を構築し、公平な処遇を行います。

よくある質問と回答

  • Q

    従業員が自主的に早く来て仕事をしている場合も労働時間になりますか?

    A

    自主的に始業前に作業を行う場合でも、企業が黙認している場合や、業務運営上必須となっている場合は労働時間に該当する可能性があります。会社が黙認している状況や、始業前の作業を前提とした業務運営を行っている場合は、労働時間として扱われる可能性があります。

  • Q

    始業前の清掃や準備作業は労働時間に含まれますか?

    A

    業務に必要な清掃や準備作業は労働時間に該当します。特に、これらの作業を行わなければ通常業務に支障をきたす場合や、会社が当然に期待している場合は、明確に労働時間として扱う必要があります。

  • Q

    パートタイム労働者の始業前労働はどう扱えばよいですか?

    A

    パートタイム労働者であっても、労働基準法の適用に違いはありません。始業前に仕事する人がパートタイム労働者の場合も、同様の基準で労働時間の該当性を判断し、適正な処遇を行う必要があります。

  • Q

    始業前労働を完全に禁止することは可能ですか?

    A

    就業規則で明確に禁止し、実際に管理を行うことで可能です。ただし、禁止するだけでなく、業務量や期限の調整、始業前労働を行わなくても業務が滞らないような職場環境の整備が求められます。

まとめ:適正な労務管理のために

始業前に仕事する人への対応は、単に時間管理の問題ではなく、労働者の権利保護と企業のコンプライアンス確保の両面から重要な課題です。

重要なポイントの整理

  • ・始業前の時間であっても、実質的に労働している場合は労働時間として扱う
  • ・労働時間として認定された場合は、適正な賃金支払いと時間管理が必要
  • ・予防的な対策として、就業規則の整備と管理システムの構築が重要
  • ・従業員の健康管理にも十分な配慮が必要

企業においては、始業前に仕事する人の実態を正確に把握し、法令に基づいた適正な処遇を行うことが求められます。また、根本的な解決のためには、業務効率化や人員配置の見直しなど、始業前労働が不要となる職場環境の整備も併せて検討することが重要です。

労働者の皆様におかれても、ご自身の働き方について疑問や不安がある場合は、会社の人事担当者との相談や、必要に応じて労働基準監督署や社会保険労務士などの専門家への相談をお勧めします。

適正な労務管理は、企業の持続的成長と労働者の働きがいの両方を実現するための基盤となります。始業前に仕事する人への対応についても、法令遵守と働きやすい職場環境の整備を両立させることで、より良い労働環境の実現を目指していきましょう。

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