chuushoukigyou-chinnage 中小企業における賃上げの現状と課題
中小企業における賃上げの現状と課題

最終更新日2024.7.8(公開日:2024.7.8)
監修者:営業責任者 渥美

握手する男性

中小企業を取り巻く賃金環境

近年、政府は賃上げを推進する施策を打ち出し、大企業を中心に賃金の引き上げが進んでいます。一方で、中小企業においては、賃上げの動きは鈍く、大企業との賃金格差が拡大傾向にあります。中小企業は、人手不足や人材確保の困難さを抱えながらも、限られた経営資源の中で賃上げに踏み切ることが難しい状況にあるといえます。

中小企業が賃上げに踏み切れない理由

中小企業が賃上げに踏み切れない理由として、以下のような点が挙げられます。

  • ・収益力の低さ
  • ・人件費負担の重さ
  • ・生産性の低さ
  • などです。この点について説明していきます。

    1. 収益力の低さ

    中小企業は、大企業と比べて収益力が低い傾向にあります。日本は世界的に見ても類を見ないほど長期的に続くデフレ、近年のエネルギー資源の高騰なども背景にあり、限られた利益の中から賃上げ原資を捻出することが難しく、賃上げに踏み切れないケースが多いといえます。

    2. 人件費負担の重さ

    中小企業にとって、ベースアップによる人件費負担は深刻な問題です。まず、売上規模が大きくない会社も多いため、大幅な賃上げは経営を圧迫します。利益率が低く、人件費は大きな割合を占めるため、わずかな賃上げでも大きな負担となる場合があります。

    また、人材育成や設備投資など、賃上げ以外の費用も必要です。競合他社との賃金格差を埋めるため、ベースアップを実施しても、人材育成や設備投資に費用を割けないとなると、優秀な人材を獲得・維持することが難しい場合があります。

    中小企業は人材不足に悩まされることが多いですが、賃上げができないため、人材確保がこれからさらに困難になる可能性もあります。

    従業員のモチベーション低下や離職につながる可能性も懸念されます。このように、中小企業にとってベースアップは経営上の大きな課題です。
    政府の支援や金融機関からの融資などを活用し、人材育成や生産性向上に取り組むことで、人件費負担を軽減し、持続可能な経営を実現することが重要です。

    3. 生産性の低さ

    次に中小企業のベースアップ実現が難しい要因の一つに、生産性の低さが挙げられます。中小企業は、大企業と比べて、設備投資や人材育成への投資が不足しがちです。その結果、業務の効率化や自動化が遅れ、生産性が低い状況に陥ることが多く見られます。
    例えば、最新技術の導入や従業員のスキルアップのための研修が不足しているため、人手に頼った作業が中心となり、作業効率が低いケースが挙げられます。

    また、経営者自身も業務に追われ、人材育成や業務改善に十分な時間とリソースを割けない状況も少なくありません。
    さらに、中小企業は、顧客との密接な関係や独自のノウハウを生かしたニッチな市場での事業展開など、大企業とは異なるビジネスモデルを持つ場合が多いです。

    そのため、大企業のように標準化された業務プロセスを導入することが難しく、生産性向上のための取り組みが難しい場合があります。生産性の低い状況では、賃上げによる人件費増加が経営を圧迫し、企業の存続を脅かす可能性すらあります。

    そのため、中小企業は、生産性向上のための取り組みを積極的に行い、ベースアップを実現するための土台作りが不可欠となります。

    1. 税制優遇措置・賃上げ促進税制

    賃上げを実施した中小企業に対する税制優遇措置が設けられています。所得拡大促進税制や中小企業投資促進税制などにより、賃上げに伴う税負担の軽減が図られています。賃上げ促進税制の説明については省略しますが、厚生労働省ホームページの「ベースアップ評価料等について」を参照されることをおすすめいたします。

    中小企業庁も賃上げ促進税についてホームページで説明していますので、賃上げに取り組まれる方はしっかり内容を抑えましょう。
    大まかな税額控除については以下のようになります。
    大企業・中堅企業は、全雇用者の給与等支給額の増加額の最大35%を税額控除。
    中小企業は、全雇用者の給与等支給額の増加額の最大45%を税額控除。

    2. 助成金・補助金の活用

    賃上げを行うのは企業として容易ではないため、賃上げを行う中小企業を対象とした助成金制度や補助金制度が用意されています。業務改善助成金や人材確保等支援助成金、キャリアアップ助成金などの助成金、ものづくり補助金やIT導入補助金を活用することで、賃上げに必要な資金を確保する助力になります。

    賃上げを実現するためには、作業工数の削減などの見直しも無論重要になってきます。中小企業の生産性向上を支援する施策も重要です。ものづくり補助金や IT導入補助金などを活用し、設備投資や業務効率化を進めることで、賃上げの原資を生み出すことができます。

    新規事業の創出や既存事業の効率化など、経営革新に取り組むことで、収益力向上と賃上げの実現を目指すという手もあります。

    中小企業における賃上げの取り組み事例

    賃上げに成功した中小企業の事例を見てみましょう。

    1. 製造業D社の事例

    D社は、生産工程の自動化と従業員の多能工化に取り組み、生産性を大幅に向上させました。その結果、賃上げ原資を捻出することができ、従業員の賃金を引き上げました。同時に、利益分配制度を導入し、従業員のモチベーション向上にもつなげました。

    2. サービス業E社の事例

    E社は、業務のIT化によって効率化を進めるとともに、従業員の教育訓練に力を入れました。生産性の向上と人材の育成により、賃上げを実現することができました。また、賃上げと併せて福利厚生の充実も図り、従業員の満足度向上にも努めました。

    これらの事例に共通しているのは、生産性向上と人材育成への投資です。中小企業が賃上げを実現するためには、業務効率化や従業員の能力開発に積極的に取り組むことが重要だといえます。

    賃上げが中小企業にもたらすメリット

    賃上げは、中小企業にとってコスト増加要因ではありますが、以下のようなメリットももたらします。

    1. 優秀な人材の確保・定着

    賃上げは難しいかもしれませんが、実現することができたら、優秀な人材を確保し、定着させるための有効な手段の一つです。魅力的な賃金水準を提示することで、人材獲得力の向上につながります。また、従業員の満足度を高め、離職率の低下にも寄与します。

    2. 生産性の向上

    賃上げは、従業員のモチベーションを高め、生産性の向上につながります。適切な賃金水準は、従業員の働きがいを高め、能力を最大限に発揮させる原動力となります。

    3. 企業イメージの向上

    賃上げに積極的な企業は、社会的評価の向上が期待できます。「従業員を大切にする企業」として認知されることで、顧客や取引先からの信頼獲得にもつながります。

    まとめ

    中小企業における賃上げは難しい状況もあり、大企業と比べて遅れをとっているのが現状です。収益力の低さや人件費負担の重さなど、中小企業特有の課題が賃上げの障壁となっています。しかし、政府による支援策を活用しながら、生産性向上と人材育成に取り組むことで、賃上げを実現することは可能です。

    賃上げは、中小企業にとってコスト要因ではありますが、優秀な人材の確保・定着、生産性の向上、企業イメージの向上など、様々なメリットをもたらします。中長期的な視点に立ち、賃上げを成長のための投資ととらえることが重要です。

    中小企業が賃上げを実現するためには、経営者の意識改革と従業員との対話が欠かせません。政府の支援策を積極的に活用しながら、生産性向上に向けた取り組みを進め、賃上げの原資を生み出していくことが求められます。
    中小企業の賃上げは、従業員の生活の安定と企業の持続的成長の両立につながるものと期待されます。

弊所サービスに関するご質問やお見積もりのご依頼は
下記フォームよりお気軽にお問い合わせください。

トップへ戻る