最終更新日:2026.01.22(公開日:2026.1.22)
監修者:営業責任者 渥美 瞬
監修協力:社会保険労務士 河守 勝彦

2024年11月1日、「フリーランス・事業者間取引適正化等法(いわゆるフリーランス保護法)」が施行されました。この法律は、フリーランスと取引を行う企業に対し、これまで以上に明確で公正な取引を求めるものです。
「うちは昔からの付き合いだから大丈夫」「業務委託契約は形式的なものだ」——こうした認識のままでは、知らないうちに法令違反となるリスクがあります。特に中小企業では、口約束やメールのみで業務を依頼しているケースも多く、今回の法施行をきっかけに契約実務の見直しが急務となっています。
本コラムでは、社会保険労務士の視点から、フリーランス保護法の概要、企業に課される義務、契約見直しの具体的ポイント、そして実務で注意すべき点を整理します。法令対応を「負担」と捉えるのではなく、フリーランスとの信頼関係を強化する機会として活用するための実務ガイドです。
フリーランス保護法の正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」です。働き方の多様化が進む中、フリーランスという働き方が急速に広がる一方で、報酬不払いや一方的な契約変更などのトラブルが社会問題化してきました。
この法律は、企業とフリーランスの取引を透明化し、力関係の偏りによる不当な扱いを防ぐことを目的としています。これまで下請法や独占禁止法で部分的に規制されていた領域を、フリーランスに特化して整理した点が大きな特徴です。
経営者にとって重要なのは、「悪質な企業だけが対象になる法律ではない」という点です。むしろ、善意で取引をしてきた企業ほど、従来の慣行がそのままでは通用しなくなる可能性があります。
フリーランス保護法の適用範囲は非常に広く設定されています。
まず発注者側は「従業員を使用する事業者」です。正社員だけでなく、パートやアルバイトを1人でも雇っていれば該当します。会社の規模や資本金は関係ありません。
受注者側は「特定受託事業者」、つまり従業員を使用せず、自らの労働力で業務を行うフリーランスです。個人事業主だけでなく、一人社長の法人も含まれます。
たとえば、デザイナー、ライター、エンジニア、講師、コンサルタントなど、業種・業務内容は問いません。単発の業務委託であっても、事業として行う取引であれば原則として対象となります。
「うちは小規模だから関係ない」と考えるのは危険であり、むしろ中小企業こそ影響を受けやすい法律といえるでしょう。
フリーランス保護法では、企業に対して大きく5つの義務が課されています。
業務を委託する際には、業務内容、報酬額、支払期日などを、書面やメールなど記録に残る形で明示する必要があります。口頭のみの合意は認められません。
報酬は、原則として成果物の納品または役務提供から60日以内に支払わなければなりません。従来の支払サイトが長い企業は、見直しが必要になる場合があります。
フリーランスを募集する際、虚偽や誤解を招く表示は禁止されています。実態とかけ離れた報酬例や条件提示はリスクとなります。
継続的な取引がある場合、育児や介護、疾病などの事情があるフリーランスに対し、業務量や納期について配慮することが求められます。
フリーランスに対するハラスメントを防止するため、相談窓口の設置や方針の明確化などの体制整備が必要です。
これらに違反した場合、公正取引委員会や中小企業庁からの指導・勧告、企業名の公表、悪質な場合には罰金といったリスクがあります。特に企業名公表は、レピュテーションへの影響が大きく、経営上のダメージは小さくありません。
契約見直しで最優先すべきは、取引条件の明示です。基本契約書を締結し、個別案件ごとに発注書やメールで具体的条件を明示する運用が実務的といえます。
特に重要なのは、次の項目です。
「いつもの条件で」「これまで通り」といった曖昧な表現は、もはや通用しません。長年の取引先であっても、改めて書面化することが必要です。
報酬の支払いは、フリーランスとのトラブルで最も多いポイントです。60日ルールを意識し、支払サイトが違反にならないかを必ず確認しましょう。
また、成果物に不備があった場合でも、一方的な報酬減額や支払拒否は原則として認められません。修正の機会を与えること、検収基準を事前に定めておくことが重要です。
消費税の扱い(税抜・税込)やインボイス制度との関係についても、契約書で明確にしておくことで後々のトラブルを防げます。
フリーランス保護法では、受領拒否、報酬減額、買いたたき、不当なやり直し要求など、優越的地位を利用した行為が明確に禁止されています。
「業界の慣習」「これまで問題にならなかった」という理由は通用しません。特に、企業側の都合による仕様変更や無償対応の要求は、違反リスクが高い点に注意が必要です。
実務では、次のような手順で対応するのが現実的です。
一度にすべてを完璧にする必要はありませんが、「何もしていない」状態は最もリスクが高いといえます。
フリーランス保護法への対応は、担当者任せにしてはいけません。契約管理の責任部署を明確にし、ハラスメント相談窓口を整備し、全社的なルールとして運用する必要があります。
特に重要なのは、経営者自身が法令遵守の姿勢を示すことです。トップの姿勢が曖昧であれば、現場も軽視しがちになります。
口頭合意でも信頼関係があれば問題ありませんか?
問題があります。法律上、取引条件の明示は義務であり、信頼関係の有無は関係ありません。
フリーランスが契約書を嫌がる場合は?
法令対応として必要であることを説明し、それでも難しい場合は取引自体を見直す判断も必要です。
一人社長の法人とも対象になりますか?
はい。従業員を使用せず、自ら業務を行う法人も対象です。
フリーランス保護法への対応は、単なるコンプライアンス対応にとどまりません。適切な契約と誠実な対応は、フリーランスとの信頼関係を強化し、企業にとっても大きなメリットとなります。
今後ますます外部人材の活用が進む中で、フリーランスとの健全な取引体制を整えることは、企業の競争力を高める重要な要素です。この機会に、自社の契約実務を見直し、安心して事業に集中できる環境を整えていきましょう。