最終更新日2025.6.11(公開日:2025.6.11)
監修者:営業責任者 渥美
会社を経営する上で「就業規則は必要ですか?」「就業規則って何を書けばいいの?」といった疑問をお持ちではないでしょうか。就業規則は会社と従業員の間の重要なルールブックであり、トラブル防止や業務効率化にも役立つ重要な文書です。
本記事では、就業規則の基本的な定義から作成義務、記載すべき内容、そして企業にもたらすメリットまで、わかりやすく解説します。法改正にも対応した最新情報を交えながら、初めて就業規則を作成する方にも参考になる内容となっています。
就業規則とは、労働者の労働条件や職場での規律などについて定めた、会社の基本的なルールを成文化した文書です。会社と従業員との間の「契約書」のような役割を果たし、双方の権利と義務を明確にします。
労働基準法第89条では、「常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、労働基準監督署長に届け出なければならない」と定めています。就業規則は単なる社内の取り決めではなく、法的拘束力を持つ重要な文書なのです。
法的には、労働契約法第7条において「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする」と規定されており、業態に沿った作成・周知された就業規則は労働契約の内容となります。
就業規則は企業内で以下の3つの重要な役割を果たします:
1.労働条件の明確化勤務時間、休日、休暇、賃金などの基本的な労働条件を明文化し、従業員が安心して働ける環境を整えます。
2.職場秩序の維持従業員の行動規範や禁止事項を明確にすることで、職場の秩序を維持し、業務の円滑な遂行を支援します。
3.トラブル防止と解決の指針労使間でトラブルが発生した際の解決基準として機能し、公平かつ一貫した対応を可能にします。
労働基準法では、「常時10人以上の労働者を使用する使用者」に就業規則の作成・届出を義務付けています。ここでいう「常時10人以上」とは、正社員だけでなく、パート、アルバイト、契約社員なども含めた人数です。
例えば、正社員が8名、パートタイマーが3名の会社であれば、合計11名となるため、就業規則の作成義務があります。また「常時」とは、臨時的・一時的でなく、通常の状態で10人以上を雇用している場合を指します。
就業規則の作成義務に違反した場合、労働基準法第120条により「30万円以下の罰金」に処せられる可能性があります。法令遵守の観点からも、条件に該当する企業は必ず作成しましょう。
従業員が10人未満の会社については、法律上の作成・届出義務はありません。しかし、規模の小さな会社でも将来の成長に備えるという意味で、事業拡大により従業員が増えた場合、後から作成するより先に整備しておく方が効率的です。
実際に、従業員9名の会社でも就業規則を作成している例は多く見られます。特に近年は働き方の多様化が進み、テレワークやフレックスタイム制など新しい勤務形態を導入する際にも、就業規則による明確化が役立ちます。
就業規則に記載すべき事項は、労働基準法第89条において「絶対的記載事項」「相対的記載事項」「任意的記載事項」の3つに分類されています。
絶対的記載事項とは、就業規則に必ず記載しなければならない事項で、以下の項目が含まれます:
1.始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇勤務時間や休憩、休日・休暇に関する規定
2.賃金賃金の決定方法、計算方法、支払方法、締切日・支払日
3.退職退職理由(自己都合・会社都合)、手続き、定年に関する事項
これらは労働条件の根幹となる部分であり、必ず具体的かつ明確に記載する必要があります。例えば、「始業時間は9時、終業時間は18時、休憩時間は12時から13時まで」といった具体的な記載が求められます。
相対的記載事項とは、会社がその制度や規則を採用する場合に限り、就業規則に記載しなければならない事項です:
1.退職手当適用される労働者の範囲、計算方法、支払方法、支払時期
2.臨時の賃金・最低賃金額賞与などの臨時の賃金や最低賃金に関する規定
3.労働者の食費・作業用品などの負担従業員が負担する経費に関する事項
4.安全衛生安全衛生に関する規定
5.職業訓練職業訓練に関する事項
6.災害補償・業務外の傷病扶助法定外の災害補償等
7.表彰・制裁表彰制度や懲戒処分に関する規定
8.その他全労働者に適用される事項上記以外の全従業員に適用される規定
例えば、賞与制度を設けている会社は、その支給条件や計算方法などを就業規則に記載する必要があります。
任意的記載事項とは、法律上の記載義務はないものの、企業が必要に応じて記載する事項です:
1.服務規律従業員の遵守すべき事項や禁止事項
2.組織・人事組織体制や人事異動に関する規定
3.教育訓練研修やスキルアップに関する規定
4.福利厚生社宅、保養所、社員食堂などの利用規定
近年では、以下のような現代的な項目も増えています:
テレワーク規定在宅勤務やリモートワークに関するルール
副業・兼業規定副業や兼業を認める条件や制限
ハラスメント防止規定セクハラ、パワハラなどの防止策と対応手順
企業の実情や業界特性に合わせたオリジナルの規定を設けることで、より実効性のある就業規則となります。
就業規則の作成は、以下のステップで進めるとスムーズです:
1.情報収集と現状分析業界の標準的な就業規則や、自社の労働慣行を調査・分析します。
2.草案の作成法律に準拠した内容で草案を作成します。厚生労働省の「モデル就業規則」を参考にするとよいでしょう。
3.社内での検討経営層や人事部門で内容を精査し、必要に応じて修正します。
4.従業員代表の意見聴取労働者の過半数を代表する者(または労働組合)から意見を聴取します。
5.最終版の確定意見を踏まえて内容を確定させます。
6.労働基準監督署への届出必要書類とともに所轄の労働基準監督署に届け出ます。
7.従業員への周知確定した就業規則を従業員に周知します。
特に中小企業では、専門知識を持つ社会保険労務士に相談しながら作成することをお勧めします。法改正への対応や、業界特性を反映した内容にするためには、専門家のサポートが有効です。
労働基準法第90条では、就業規則の作成・変更時に「労働者の過半数で組織する労働組合、または労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない」と定めています。これは単なる形式ではなく、実質的な意見聴取が求められます。
また、同法第106条では、就業規則を労働者に周知させる義務を規定しています。
周知方法としては以下のいずれかが必要です:
実務上は、入社時に就業規則を含む資料を配布する、社内イントラネットに掲載するなどの方法が一般的です。最近ではクラウドサービスを活用した電子的な周知方法も増えています。
就業規則を作成・変更した場合は、労働基準監督署への届出が必要です。届出には以下の書類が必要となります:
1.就業規則届(様式第89号)厚生労働省のウェブサイトからダウンロード可能
2.就業規則本文必要に応じて附属規程(給与規程、退職金規程など)も含む
3.意見書労働者の過半数代表者または労働組合の意見を記載した書面
届出は、会社の所在地を管轄する労働基準監督署に対して行います。郵送による届出も可能ですが、内容に不備がある場合は差し戻される可能性があるため、直接持参することをお勧めします。
なお、届出が受理されても就業規則の内容が適法かどうかの審査が行われるわけではありません。法的に問題のある規定があっても、そのまま受理されることがあるため、作成時点で法令に準拠していることを確認することが重要です。
業態に沿った就業規則を作成・運用することで、以下のような労働トラブルの防止と解決に役立ちます:
トラブルの予防労働条件や服務規律を明確にすることで、誤解や認識の相違によるトラブルを未然に防止できます。
一貫した対応の基準問題が発生した際に、個人的な判断ではなく就業規則に基づいた一貫性のある対応ができます。
法的紛争時の証拠万が一、訴訟などの法的紛争に発展した場合、作成・周知された就業規則は重要な証拠となります。
実際に、東京都労働相談情報センターの調査によれば、労働相談の約30%が「労働条件の明示不足」に関するものであり、就業規則の作成と周知によって解決できる問題が多いことがわかっています。
明確な就業規則は、職場環境の改善と生産性向上にも寄与します:
行動規範の明確化従業員が何をすべきか、何をしてはいけないかを明確にし、自律的な行動を促します。
公平な評価基準評価や昇進の基準を明示することで、従業員のモチベーション向上につながります。
効率的な業務運営標準的な業務プロセスや手続きを定めることで、業務の効率化が図れます。
特に近年は、テレワークやフレックスタイム制など多様な働き方が広がる中で、明確なルール設定がますます重要になっています。
就業規則は、公平で一貫性のある人事管理の基盤となります:
評価制度の透明化評価項目や方法を明確にすることで、公平な人事評価が可能になります。
昇給・昇格の基準昇給や昇格の条件を明示することで、従業員の納得感を高めます。
福利厚生の公平な適用福利厚生制度の適用条件を明確にすることで、不公平感を防止します。
人事評価の不公平感は従業員の不満やモチベーション低下の大きな要因となりますが、業態に沿った就業規則によってこうした問題を軽減できます。
就業規則を変更するときの手続きは?
就業規則を変更する場合も、新規作成と同様のプロセスが必要です:
1.変更案の作成:変更内容を明確にした案を作成します。
2.従業員代表の意見聴取:変更案について労働者代表の意見を聴取します。
3.労働基準監督署への届出:変更後の就業規則と意見書を届け出ます。
4.従業員への周知:変更内容を従業員に周知します。
特に重要なのは、労働条件を不利益に変更する場合です。労働契約法第9条では、「労働者の合意を得なければ、労働契約の内容である労働条件を労働者の不利益に変更することはできない」と規定しています。ただし、同法第10条では、変更が合理的であり、周知がなされた場合には、就業規則の変更による労働条件の不利益変更も可能としています。
実務上は、変更の必要性や合理性について丁寧に説明し、従業員の理解を得ることが重要です。
パートタイマーにも就業規則は適用される?
パートタイマーや契約社員、アルバイトなどの非正規雇用者にも、原則として就業規則は適用されます。ただし、労働条件に差異がある場合は、以下の方法で対応します:
1.一つの就業規則で区分して規定:「第○条 パートタイマーの労働時間は…」のように区分して記載する方法
2.別途、パートタイム就業規則を作成:正社員とは別に、パートタイマー専用の就業規則を作成する方法
なお、2020年4月から施行された「パートタイム・有期雇用労働法」では、同一企業内における正規雇用者と非正規雇用者の不合理な待遇差が禁止されています。就業規則の内容もこの法律に準拠する必要があります。
モデル就業規則はどこで入手できる?
厚生労働省では「モデル就業規則」を公開しており、就業規則作成の基本的な参考資料として活用できます。
以下の方法で入手可能です:
1.厚生労働省のウェブサイト:「モデル就業規則」で検索するとファイルがダウンロードできます。
2.労働基準監督署:窓口で配布している場合があります。
3.都道府県労働局:労働相談窓口でも入手できる場合があります
ただし、モデル就業規則はあくまで一般的な例示であり、各企業の実情に合わせてカスタマイズする必要があります。業種や企業規模、社風などに応じた修正が重要です。
特に初めて就業規則を作成する場合や、大幅な改定を行う場合は、専門家のサポートを検討されることをお勧めします。
就業規則は、単なる法的義務ではなく、健全な職場環境を構築し、企業の持続的な成長を支える重要なツールです。本記事で解説したように、就業規則の作成と運用には様々なメリットがあります:
労働環境の変化や法改正に対応するため、就業規則は定期的に見直し、必要に応じて改定することが重要です。特に近年は、働き方改革関連法の施行やテレワークの普及など、労働環境が大きく変化しているため、時代に即した内容に更新することが求められています。
就業規則の作成や改定にお困りの際は、社会保険労務士などの専門家に相談することをお勧めします。専門家のサポートを受けることで、法令に準拠しつつ、自社の実情に合った実効性のある就業規則を整備することができます。
適切な就業規則を基盤に、従業員が安心して働ける環境を整え、企業の持続的な成長につなげていきましょう。
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