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うつ病などの精神障害で労災申請を求められた場合の会社の対応

11月精神障害での労災対応

うつ病などの精神障害で労災申請を求められた場合の会社の対応
      -長時間労働、ハラスメントなど

 業務中に外傷を負うなどのケースとは違い、精神障害については、労働実態や労働環境との因果関係が不透明な場合が多くあります。労災申請への対応にも注意が必要です。

 厚生労働省が毎年公表している「精神障害の事案に関する労災補償状況」によれば、平成30年度の請求件数は1,820件(前年度比88件増)で、支給決定件数は465件(同41件減)となっており、申請件数は年々増加傾向にあります。
 うつ病などの精神障害で休職している労働者や休職期間満了などで退職した労働者から、突然、これは会社によるハラスメントや長時間の残業が原因なので業務上災害として労災保険の申請を求められることがあります。このような場合、会社としてどのような対応が必要となるのでしょうか。

精神障害の労災請求、決定及び支給決定件数の推移

◆ 労働災害と認められるには ◆

 うつ病などの精神障害が労働災害として認定されるか否かは、認定対象となる精神障害の発病の有無、発病時期および疾患名を明らかにしたうえで、
 ① 業務による心理的負荷、
 ② 業務以外の心理的負荷、
 ③ 個体側要因(精神障害の既往歴、アルコール依存などの状況、生活史など)
について評価し、発病した精神障害と業務との関連性を総合的に判断されることになります。
 具体的には、労働基準監督署の調査により、厚生労働省が定める心理的負荷の基準(「業務による心理的負荷評価表」及び「業務以外の心理的負荷評価表」)に基づき、
 ① 発病前おおむね6ヵ月間に業務による強い心理的負荷があったと認められるか、
 ② 業務以外の要因による心理的負荷や個体側要因により発病したものであるか、
などを確認・評価することになります。
 業務による強い心理的負荷とは、たとえば、生死にかかわる極度の苦痛を伴う、または永久的に労働不能となるような後遺障害を残す業務上の病気や怪我をした場合、業務に関連し他人を死亡させまたは生死にかかわる重大な怪我を負わせた場合などがあります。また、労働者本人の意思を抑圧して行われたパワハラ、セクハラなどのハラスメントを受けた場合なども該当します。
 また、長時間労働との関連性については、仕事量が大幅に増加し、たとえば、
 ① 発病直前1ヵ月当たりの時間外労働が160時間以上となった場合、
 ② 発症直前の連続した2ヵ月間に1ヵ月当たりおおむね120時間以上の時間外労働を行った場合、
 ③ 発症直前の連続した3ヵ月間に1ヵ月当たりおおむね100時間以上の時間外労働を行った場合
などは業務に伴う精神障害と認定されます。
 詳しくは、厚生労働省が定めている「心理的負荷による精神障害の認定基準」を参考にして下さい。


◆ 安易な労災申請はしない ◆
 労災保険の請求は、原則として被災した労働者本人(被災労働者が死亡した場合はその遺族)が行うことになります。しかし、労災保険に加入しているのは会社であり、保険料はその全額を会社が負担しています。また、「保険給付を受けるべき者が、事故のため、自ら保険給付の請求その他の手続を行うことが困難である場合には、事業主は、その手続を行うことができるように助力しなければならない」(施行規則第23条)と定められているため、通常は会社が請求手続きを代行しています。
 労働者がうつ病などの精神障害となった場合、その発症の原因が業務上によるものだから労災保険の請求をして欲しいという要求を受けることがよくあります。健康保険で治療を受けると、原則として、治療費の3割は従業員の自己負担となります。しかし、業務上災害として労災が認められれば、治療費はその全額が労災保険で賄うことができ、労働者負担はありません。また、会社も労災保険を請求してもその治療費に会社負担が生じるわけでもありません。
 しかし、労災保険の保険給付の請求書には、その傷病等について会社が記載証明する「事業主証明」欄があります。精神障害の原因が、残業が多く長時間労働を強いられたせいだとか、ハラスメントを受けたことによるものだなどの労働者の主張があった場合に、労災保険の保険給付の請求に限ってのことだし、労働者ともめたくないからと安易にそのまま証明してしまうと、後日、労働者から安全配慮義務違反として民事上の損害賠償請求をされる恐れもあります。仮に後で裁判に至った場合、訴訟の場で会社に責任はないと主張することは事業主証明欄に安易に記載証明した事実と矛盾することとなり、対応に苦慮することになります。
 したがって、労働者からの請求に対して、それが業務上によるものかどうか判断が困難な場合には、勤務時間や時間外労働時間の実態をみて過度な業務負担があったかどうか確認することが必要です。また、パワハラやセクハラといったハラスメントによる場合は上司や同僚等に事情聴取を行い、事実関係の調査・確認をしなければなりません。精神障害を労災と認定する基準については、先に述べた「心理的負荷による精神障害の認定基準」を参考に会社なりの見解を出しておくことも必要です。
 ただし、あくまでも労災となるか否かの認定をするのは労働基準監督署です。会社の見解と労働者の意見が相違している場合は、労働者本人に保険給付の請求書を記載してもらい、会社は請求書の疑義のある箇所(たとえば災害の原因及び発生状況など)について別途理由書を作成し事実を確認できない、または事実と相違しているため証明できない旨記載し、請求書および理由書を所轄労働基準監督署に提出するのがよいでしょう。
 仕事中の事故による怪我などのように明らかに業務上災害である場合はともかく、うつ病などの精神障害においては、前述したような個体側要因による部分もあるので、業務上であるか否かは判断が難しいところです。事業主証明には慎重を期すべきでしょう。

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