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出張や直行・直帰の移動時間と労働災害の取り扱い

出張や直行・直帰の移動時間と労働災害の取り扱い

出張や直行・直帰の移動時間と労働災害の取り扱い

   移動時間に労働災害が起きたら労災保険はどうなる?
 従業員が出張や直行・直帰の移動時に事故など何らかの災害が起きた場合、労働災害(以下、労災)としての取り扱いはどのようになるのでしょうか。


 3月、NHKのニュースでこんな報道がありました。長時間、車を運転して取引先を回っていた会社員が過労により死亡したとして、遺族が労災保険を申請しましたが、労災とは認められなかった、というものです。
 遺族や弁護士によれば、この労働者(男性)は横浜市にあるクレーン車販売会社の営業社員。3年前に心臓疾患で死亡した当時は26歳でした。会社の車を運転して東北から東海まで12県の取引先を回っており、ほぼ毎日会社に寄らず取引先に向かい、日によっては10時間以上運転していたそうです。
 遺族が、長時間労働による過労死だとして労働基準監督署に労災を申請しましたが、「車の運転は労働時間に当たらない」とされ、労災とは認められませんでした。
 遺族側は「働き方改革の一方で、会社の外での労働時間が切り捨てられている」と批判しています。これに対して、厚生労働省は「車の運転を労働時間とするかは個別の事例ごとに判断している」としています。
 そこで今回は、出張やそれにともなう移動時間、直行・直帰にかかわる労働時間および労災保険の取り扱いについて、現行法上どのようになるのかを見てみましょう。


出張中の移動時間 ◆

 「労働時間」とは、使用者の指揮命令下にあり、労働から完全に解放されている休憩時間を除いた時間をいいます。 したがって、使用者の指揮命令下にあり、自由利用が保障された時間でない限りは「労働時間」となります。
 よく問題となるのが出張先への移動時間です。これについては休日の出張移動に関するものですが、「出張中の休日はその日に旅行する等の場合であっても、旅行中における物品の監視等別段の指示がある場合の外は休日労働として取り扱わなくても差し支えない」としており、出張前後の移動時間は、「業務性」を欠き、通常は自由が保障されているので労働時間には該当しないとしています(昭3.3.17基発461、昭33.2.13基発90)。
 したがって、出張にともない電車や旅客機などの公共交通機関を利用して移動する場合、これらに乗車・搭乗中の時間については、使用者から物品の監視など、別段の指示命令がない限り、原則として労働時間として取り扱わなくても、違法にならないことになります。
 社有車を運転しての出張であっても、たとえばそれが「得意先へ製品納入のため物品を積み込んでの運搬]であれば、製品の運搬と監視を目的とする出張であるため、使用者の指揮監督の下にある時間となり、労働時間と見るべきです。 しかし、単に移動のための交通手段として社有車などを使用する場合は、たとえ運転による心身の疲労があるとしても、そのことだけをもって労働時間とはなりません。
自ら運転したとしても、その時間については、労働者の自由な利用が可能であり、使用者の指揮監督下にないと実質的に認められるものであるならば、「労働時間ではない]と解するべきでしょう。
 出張にともなう移動時問が労働時間となるか否かは、事案の実情に応じて、両者の境はあいまいな部分もあるため、実態に即して具体的な諸事情を総合的に考慮して、実質的な判断をする必要があります。判例においても「出張の際の往復に要する時間は、労働者が日常の出勤に費す時間と同一性質であると考えられるから、右所要時間は労働時間に算入されず、したがってまた時間外労働の問題は起り得ないと解するのが相当である」(日本工業検査事件:横浜地裁川埼支部 昭46.1.26決定)など、多くの判例が出張の際の往復に要する時間について、労働時間に当たらないと判断しています。


◆ 出張中の労働災害 ◆

 次に、出張中に労働災害に遭った場合、まず「業務上]と認められるかどうかが問題となります。前述の通り、労働基準法上、出張にともなう移動時間は労働時間とみなされないことが多いのですが、労災の場合には、自宅を出てから自宅に帰るまでが出張と認められます。順路の一部が通常の通勤経路と重複していたとしても、出張日程、目的地などから負傷時刻、負傷場所などが妥当であれば、自宅を出てから自宅に戻るまで、移動時間や宿泊中も含めた全行程が業務の遂行と認められます。
 労災保険の保護の対象となる業務上災害とは、災害の原因となった行為に「業務起因性」のほか「業務遂行性」があることが要件となります。通常、出張とは事業主の包括的または個別的な命令によって特定の用務を果たすために、通常の勤務地を離れて用務地へ赴いてから、用務を果たして戻るまでの一連の過程をいいます。そのため、出張の過程全般を業務行為と捉え、業務遂行性がともなうものとされるので、移動、食事、宿泊などの間も、何か災害が起きると労災になります。
 しかし、出張中の積極的な私用・私的行為・恣意的行為をしている間は、業務遂行性が失われているとして労災とは認められません。


◆ 直行・直帰の移動時間 ◆

 直行・直帰とは、いったん会社に出勤し、そこから使用者の業務命令により作業現場や得意先などの目的地に移動すべきところを、会社を経由することによる無駄な時間を省くため、直接自宅から目的地に移動し、また、目的地から直接自宅に移動することをいいます。
 実際の労務提供は目的地で開始されるものであり、目的地までの移動は準備行為とみなされます。労働者は移動時間中の過ごし方を自由に決めることができることから、使用者の指揮命令がまったく及んでいない状態にあるため、労働時間には当たらないという考え方です。
 直行・直帰では、始業時刻は営業先や業務を行う現場への到着時刻、終業時刻は営業先や業務を行った現場を出発した時刻で判断することとなり、現場などに到着した時刻から現場などを出発した時刻までを労働時間(休憩時間を除く)とみなします。
 したがって、直行のときは訪問先に到着するまでの時間、直帰のときは訪問先で業務が終了した後の帰路の時間は、通勤時間であり、労働時間に該当しません。その途中で起きた災害は通勤災害となります。
 ただし、前述の出張と同様に物品の運搬や監視など、会社の指揮命令下に置かれていると判断できるような場合は、直行・直帰にともなう移動時間についても、労働時間となりますので、その途中で起きた災害は業務上災害となります。

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