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従業員のミスによる不利益の損害賠償

労務のお悩み相談室 Q&A

今月の相談 従業員のミスによる不利益の損害賠償

【 質 問 】
 当社は小売業を営んでいます。現在、今年度採用した新入社員の現場研修の一環として、レジ担当の実習をしています。しかし先日、売り上げ額と現金の集計金額が合わずに調べたところ、実習中のつり銭ミスによることが判明しました。このような場合、ミスをした社員に対して損害賠償をさせることができるのでしょうか。

【 回 答 】
 従業員がレジを担当してつり銭などを間違えることは起こり得ることです。しかし、従業員のミスを、教育やマニュアルの運用で防止・減少させることも会社の責任です。会社は従業員の働きで利益を得ているため、従業員のミスについて基本的に責任を負う立場にあります。

 判例では、「使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償を請求することができるものと解すべきである」(最一小判例昭51.7.8)とする、一つの基準(責任制限の法理)を示しています。 したがって、従業員のミスに対する損害賠償請求および賠償額については、その故意性または過失の重大性、会社としての予防・損害の分散などを勘案して限定的に考えなければならず、すべての責任を従業員に負わせることは難しいでしょう。
 また、入社に際して「業務上、故意または過失により会社に損害を与えた場合には損害賠償を支払う」旨の誓約書を求めたり、就業規則にその旨を定めている場合があります。 しかし、労働基準法では、実際に生じた損害額にかかわらず「レジのミスに対して3万円の罰金」などと損害賠償額を定めた労動契約を結ぶことを禁止しています(第16条)。ただし、実際に生じた損害額を求めることは差しつかえありません。この場合、損害賠償額は、その実損の範囲内で従業員の帰資性や地位などを考慮して、信義則上相当と認められる限度でしか請求できず、全額ではなく、損害の一部負担が限度です。
 また、この損害賠償額について、会社が一方的に従業員に支払う給料から天引きすることはできません。労働基準法上、「賃金の全額払い」が原則であり(第24条)、また判例上、「損害賠償金が不法行為を原因とするものであっても賃金と相殺することはできない」(最大法廷判例昭36.5.31)とされています。 したがって、天引きする場合は、従業員との合意が必要になります。
 今回のつり銭ミスの損害賠償は、その額の大きさやこれまでのミスの回数、会社側のミス防止措置などにもよるでしょう。

     \今月のポイント/
従業員に責任をすべて負わせることは難しく、会社側の防止策なども踏まえた判断に

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